人口1700人、世界で2番目に小さい国って? 移住者が「完璧」というニウエの生活
- ニウエの海でポーズ
世界で一番人口が少ない国バチカンは有名ですが、2番目のニウエってどんな国……? 約2年ぶりに国境が再開するタイミングで記者が訪ね、この国の魅力や未来について探りました。
6月28日早朝、ニュージーランド(NZ)のオークランド国際空港の一角は、約2年ぶりとなるニウエの国境再開を心待ちにする人々でにぎわっていた。「NIUE ISLAND」と大きく書かれた白い発泡スチロールの箱をカートに載せた人々が行き交う。ニウエの有名人なのだろうか、笑顔の男性の写真があしらわれたおそろいの黒いTシャツを着ている人たちもいる。
南太平洋にポツンと浮かぶサンゴ礁の島、東京23区の半分弱の国土に約1700人が暮らす。バチカンに次いで世界で2番目に人口が少ない国ニウエ。日本にとっては2015年5月、195番目に承認した「世界一新しい国」でもある。
ニウエは259平方キロメートル(屋久島の約1/2)1,888人(2020年、アジア開発銀行)ニウエ人(ポリネシア系)90% ニウエ語(ポリネシア語系)、英語 キリスト教90% 台湾は南北に細長い島で面積は約3.6万平方km、日本の九州よりやや小さいぐらいの大きさです。 日本の大阪から約3時間、東京からでも約3時間半のフライトです。
- サンゴ礁が隆起してできたニウエ島=2022年7月、荒ちひろ撮影
2020年はじめ、新型コロナで世界中が国境を閉じる中、ニウエも厳しい水際対策を敷いた。NZと結ぶ唯一の国際便は週2便から隔週1便に。入国を原則自国民に限り、人数も制限して14日間の隔離を義務づけた。初の陽性者が検疫で確認された今年3月8日までコロナ感染ゼロを維持。いまだ市中感染ゼロのまま、旅行者の受け入れを再開した第1便で、私はニウエに向かった。
離陸から約3時間、日付変更線を越えて27日午後2時ごろ、乗員乗客122人を乗せたエアバスがニウエ国際空港に着陸した。背中に「PELENI'S TRAVEL」と書かれた黄色いシャツの男性たちが、タラップを接続し、荷下ろしを始めた。目の前の空港建物に入ると、青い制服姿の男性が消毒用のジェルを差し出した。この人物は警察署長、黄色いシャツの男性らは地元旅行会社のスタッフだった。週1便の発着に合わせ、空港の作業に当たっているという。この国では、一人で何役もこなすのが珍しくない。
ニュージーランドの北東約2400キロメートルに位置する、世界最大のサンゴ礁の島一つで構成。1900年に英国の保護領に、1901年にNZの属領になる。74年に内政自治権を獲得し、NZとの自由連合に移行。70年の空港開設以降、当時約5000人だった人口は、90年代後半に2000人を割った。ニウエに住む10倍以上のニウエ人が海外で生活しているとされる。元首は英国女王。議会は一院制で、3年に一度の選挙で14の村ごとの議席と島全体の6議席の計20人の議員を選ぶ。公務員の週休3日制を導入している。
空港に迎えに来てくれたアビ・ルビンさん(56)もレストランやバーを営み、商工会議所や通信会社でも役職を兼務する。レンタカー業も手がけ、妻はコテージを運営している。
アビさんは中東イスラエル出身で、14歳のころ家族で米国へわたった。ロビンソン・クルーソーの冒険譚に憧れ、子どものころから小さい島に住むのが夢だった。大人になって太平洋を巡る中で1991年にニウエを訪れ、ほれ込んだ。「ニウエには酋長も国王もいない。貧困も社会階層もなく、みな平等なんだ」。99年に移住。ニウエ人の妻と結婚し、4人の子どもがいる。
仕事で世界各地を見てきたというアビさんはニウエの生活を「完璧なバランスだ」と言う。「例えばシンガポールも小さくて豊かな国だが、大量生産・大量消費の社会だ。ここには高級ブランドも高級車もないけど、誰もそんなことは気にしない。犯罪もなく、誰も家や車にカギをかけない。きれいな空気に水、青い空と海に緑の木々……。完璧だ」
自分で釣ったマグロを売るうちに、ニウエに住む日本人男性と意気投合し、日本食レストラン「カイイカ」を開いた。水や魚の加工も試し、地ビールの開発も計画する。試行錯誤(しこう‐さくご)を続けるのには訳がある。
「人口の4分の1にあたる約400人は公務員。国家予算の3分の1はNZの援助に頼っている。この10年で観光業は発展したが、コロナ禍で観光だけに頼っていては『卵を一つのかごに盛る』ようなものだと、多くの国民が気づいた。子どもたちの世代のためにニウエにもっと民間の産業を育てたいんだ」