ゆっくり、やさしく自然に還りたい 西海岸シアトル生まれの「自然有機還元葬」とは
- シアトルの葬儀社「リコンポーズ」の還元葬で、約2か月かけてできた土。乾いた腐葉土(ふよう‐ど)のような手触りで、土の良いにおいがした=2022年12月19日、米西部ワシントン州、荒ちひろ撮影
アメリカで、遺体を短期間で土に変える新たな葬法が登場している――。そんな話を聞き、記者が米ワシントン州を訪ねました。 いったいどんな葬法なのか、誰が、なぜ発明したのか、どんな人が希望しているのか……。創業者らも予期していなかった広まりをみせています。
「どうぞ、触ってみて」
米西部ワシントン州シアトルの葬儀社「リコンポーズ」の代表カトリーナ・スペードさん(45)が差し出した小さな箱をのぞくと、腐葉土を乾燥させたような薄茶色の土が見えた。
一握り、手に取ってみる。
ザクザクとした触感で軽く、パラパラと簡単に手から離れるほど乾いている。顔を近づけてみると、深い森の中のような、土の良いにおいがした。
「約2カ月かけて自然に還った、実際の人物からできた土です」
蜂の巣(はち‐の‐す)のような装置の正体は…
シアトル市街地から車で10分、倉庫や工場が立ち並ぶ工業地域に2022年12月、同社を訪ねた。
物流センターだったという広い空間に、白い金属製の六角柱が蜂の巣状に組み合わさった「壁」がそびえ立つ。六角形一つ一つに丸いふたがついており、さながら、おしゃれなカプセルホテルに見えなくもない。中には筒形の装置が収まっている。微生物による遺体の分解を人工的に促す「還元葬」を行う装置だ。
- シアトルの葬儀社「リコンポーズ」の還元葬の設備。六角柱(ろっかくちゅう)が蜂の巣状に組み合わさったデザインが特徴的=2022年12月19日、米西部ワシントン州、荒ちひろ撮影
「装置の主な役割は三つ。温度管理、酸素供給、そして回転させること」
最適な比率に計算されたウッドチップやアルファルファ(糸もやし)、わらを敷き詰めた棺に遺体を安置し、上からもわらなどで覆って装置に納める。すると微生物が分解を始め、およそ一日で内部の温度は約65度まで上がる。コンピューター制御で内部の空気を循環させ、温度や湿度を管理する。しばらく高温が続き、この間に病原菌は死滅する。1週間ほどで温度が下がり始めたら、隅々まで酸素が行き渡るよう超低速で数時間、筒形の装置ごと回転させる。
「人工的に熱を加えたり、内部をかき混ぜたりはしません。微生物の力で、自然な形で土に還るのです」
1カ月ほどで柔らかな土と骨だけの状態になり、体積は約3分の1に。法律で、遺骨は骨とわからない状態にすることが定められているため、取り出して機械で細かくした上で戻し、人工関節など体内に残されていた金属類はこの時点で回収される。約1立方メートルの容器に移し、2〜4週間ほど乾燥させる。
こうして、科学的にも安全で肥沃な「土」ができる。家族らは一部を手元に残したり、庭で木や花を育てたり、保護林へ寄贈することもできる。