THIS WEEK「国際」 牧野 愛博 2024/01/25

愛娘(まなむすめ)に帝王学(ていおうがく)、市場経済一掃 金正恩が北朝鮮を「魔改造(まかいぞう)」中

 北朝鮮は、1月14日に中距離弾道ミサイルを発射し、19日には核無人水中攻撃艇の試験を行ったことを明らかにした。米専門家から「戦争の決意をした」と危ぶむ声が出ている。

 その一方で、5日に、岸田文雄首相に能登半島地震の見舞いの電報を送った。その裏には、今秋、トランプ氏が再び米大統領選に勝利することを見据え、先に日本を籠絡しておこうという意図が見え隠れする。

 外交に注目が集まるが、金正恩総書記が着手しているのが本国の改造・強化だ。正恩氏は1月15日の最高人民会議(国会)での演説で「経済部門が自らの利己主義を追求した時代は終わった」と発言した。

 北朝鮮は大量の餓死者を出した1990年代の半ば以降、市場経済を一部導入したが、国外からの情報流入や新興富裕層の台頭を許してしまった。北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部は「正恩は市場経済を一掃する考えだ」と語る。

 それを裏付けるかのように、北朝鮮外務省は21日、ロシアのプーチン大統領が早期に訪朝する考えを崔善姫外相に伝えたと明らかにした。新冷戦により、ロシアや中国からの支援にメドが立った今、市場経済に用はなくなったということだろう。

 さらに最高人民会議は、対南(韓国)機関3部門の廃止を決めたが、組織改編は党や政府全体に広がっているとみられる。日朝関係筋によれば、北朝鮮は最近、在日朝鮮人らに「本国の指示があるまで、訪朝などの問い合わせを控えるように」と通達した。さらに「朝鮮総連を担当する党統一戦線部も組織改編の対象になっている」(前出・元幹部)模様だ。正恩氏は韓国を「敵対する国家」と位置付けた。前出の元幹部は「韓国に吸収されるという危機感の表れ。党や政府を改造して、韓国と戦える体制にしたいのだろう」と分析する。

 そして、正恩氏が手がける「魔改造」の象徴が、キム・ジュエと呼ばれる娘を巡る後継者育成だ。

 昨年の大晦日、平壌の新年慶祝大公演が開かれた。正恩氏はジュエ氏、妻の李雪主氏と共に観覧した。一般客が顔の高さまで両手を上げて熱狂的に拍手し、側近たちも同じように振る舞っていた。ところが、正恩氏とジュエ氏だけは、片手を動かさず、もう一方の手を、カスタネットを叩くように静かに上下させた。

「最高指導者と後継者にだけ許されたしぐさ。10歳くらいの女の子の振る舞いではない。帝王学の伝授が始まっている」(同前)

 北朝鮮改造は、まだ始まったばかりのようだ。