THIS WEEK「国際」 高口 康太(たかぐち こうた) 2024/01/10
11兆3000億円が一瞬で消えた 中国の規制はゲームより不条理
1月2日、中国共産党中央宣伝部出版局・馮士新(フォンシーシェン)局長が解任されたことが、世界的に報じられた。
発端は、中国の国家新聞出版署(しゅっぱんしょ)が12月22日に発表した「ネットゲーム管理法」の草案だ。これにより中国ゲーム業界の収益が減少し、不景気の中国経済をさらに悪化させるとの見方が広がった。テンセントやネットイース(NetEase Games)などゲーム企業の株価は急落。1日で800億ドル(11兆3000億円)もの時価総額が消失したのである。
この事態に慌てた国家新聞出版署は草案を見直すと発表。ゲーム企業各社は、「管理法は業界の健全化につながる」とポジティブに受け止めた声明を出した上、自社株買いを強化するなど株価対策に乗り出した。しかし、本心から法案を歓迎しているはずもなく、当局から要請されたためとみられている。
必死の火消しもむなしく、下落した株価は回復せず、政府批判は収まらない。そのため、ゲーム規制を主導してきた馮局長の解任に至ったようだ。
テンセント・ホールディングス(簡: 腾讯控股有限公司、英語: Tencent Holdings Ltd.)は、広東省深圳市に本拠を置く中国の多国籍テクノロジー・コングロマリット
- テンセントの馬化騰CEO(52)
それにしても800億ドルを吹き飛ばしたゲーム規制とはいかなる内容なのか?
中国のゲーム企業で働くあるベテラン社員が解説する。
「他プレイヤーとの対戦を義務づけ課金を促すこと、初めて課金した人や連続して課金した人には特典を与えることなど、中国のゲームではよくある仕組みが規制対象でした。最終案ではないにもかかわらず、これだけの波紋を招いたのは、『また規制地獄が始まった』という失望感です」
中国ゲーム業界は規制地獄に翻弄されてきた。19年、21年の規制によって、未成年は週に3時間しかゲームを遊べないよう定められた。また、21年夏から8カ月にわたり、新作ゲームの発売が一切許可されない時期もあった。
いつ何時、どんな形で叩かれるかわからないというゲーム以上の不条理が業界に“絶望”をもたらしたのである。この不安はゲーム業界以外にも共通する。例えば21年の学習塾の全面禁止、大手IT企業の金融事業などへの規制強化は、景気低迷の一因になった。
中国政府は22年3月に各省庁に対し「資本市場に重大な影響を与える政策は、一貫性を保つため、事前に金融管理部門と相談せよ」と指示していた。これで景気減退につながる不条理な規制はなくなる、と企業も投資家も歓迎していた。
ところが今回、ゲーム規制当局は、そんなことはお構いなしに暴走してしまった。馮局長をスケープゴートにしても、再び生じてしまった疑心暗鬼が消えることはない。