町山智浩の言霊USA 第748回 2024/11/30
“It must be the worst nomination for a cabinet position in American history”(間違いなくアメリカ史上最悪の閣僚人事だ)by ジョン・ボルトン
「間違いなくアメリカ史上最悪の閣僚人事だ」第一期(だいいっき)トランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官だったジョン・ボルトンが言ったように、トランプが第二期政権の閣僚に指名した連中は、見事に不適任者のオンパレードだった。
司法長官に指名したのは、『シャイニング』のジャック・ニコルソンを思わせる邪悪な(じゃあくな)目つきのフロリダ州のマット・ゲーツ下院議員。たった2年弁護士事務所に在籍しただけで検察の経験はゼロ。そんな素人(しろうと)を司法のトップに? 数々の犯罪で刑事起訴されたトランプをかばったご褒美人事でしかない。
このゲーツ、少女との淫行疑惑(いんこうぎわく)の渦中(かちゅう)_にある。
2020年に汚職で逮捕されたフロリダ州の税金徴収官ジョエル・グリーンバーグが当時の大統領トランプに恩赦を求めて側近に書いた手紙に、彼がゲーツに女性たち(17歳の少女を含む)を手配したと書かれてあった。検察は証人のプライバシーを懸念してゲーツを起訴しなかったが、今年になって民事訴訟の文書が新たに出てきた。
その文書によれば2017年、ゲーツがコカインやエクスタシーなどでキメまくりのパーティに参加し、17歳の少女AB(仮名)との性的関係があったという。目撃者として女性3人の宣誓供述書や、携帯電話のGPSで彼が現場にいた事実を確認したゲーツの当時の恋人の証言もある。
これを受けて連邦議会下院の倫理委員会でゲーツに対する調査が始まった。共和党の上院議員マークウェイン・マリンによると、ゲーツ議員は携帯電話で自分がセックスした少女の写真を見せて「ED薬とエナジードリンクのおかげで一晩中やったよ」と自慢したという。
そんなゲス野郎が司法長官に指名されたから議員たちは驚いたが、指名の直後にゲーツは議員を辞任した。倫理委員会の追及を避けるため。
下院議員ではハワイ州のトゥルシ・ギャバードも国家情報長官に指名された。諜報活動を統括する役職だが、ギャバードにも諜報部門での経験がない。それどころか「ロシアのスパイ」と呼ばれている!
ギャバードはサモア系の女性議員でもともとは民主党だったが、ウクライナを支援するバイデン政権を批判して民主党を離党した。
ギャバードはロシアの侵略を「ウクライナのバイオ研究所の生物兵器開発を止めるため」と擁護(ようご)した。それはプーチンが流したデタラメ陰謀論の丸写し(本当はアメリカ政府の資金援助で運営する疫病対策の施設)。だからロシア国営テレビはギャバードを「ロシアのガールフレンド」と呼んで絶賛(ぜっさん)。
そんな親露派を諜報機関のトップに? 情報、プーチンにダダ漏れじゃないの?
ギャバードは国際安全保障について無知らしい。Xにこんな投稿もしている。「真珠湾攻撃を思うと日本の再軍備は危険だ。日本とアメリカが対決しないよう注意が必要だ」
彼女は反ワクチン陰謀論者でもある。今年の選挙では無所属で大統領に立候補した反ワクチン弁護士のRFK(ロバート・F・ケネディ)ジュニアからの副大統領候補の指名は断っていたけど。
ギャバードもRFKジュニアも選挙戦の途中でトランプ支援についたので、これもご褒美人事。RFKジュニアのほうは保健福祉省(厚労省)の長官に指名された。
RFKジュニアははしか混合ワクチンが自閉症の原因と主張する(科学的に否定された説)弁護士として有名に。2018年にはサモアで反ワクチン運動を展開して住民が混合ワクチン接種を拒否、80人以上がはしかで亡くなった。2020年には「コロナは白人と黒人を標的にしており、ユダヤ人と中国人は免疫がある」「コロナは生物兵器だ」などという陰謀論を主張。彼が保健福祉長官になればパンデミックの危険性が高くなる。
全米規模で中絶を禁止するとも発言したRFKジュニアだが、自身は女癖が悪く、二番目の妻は、彼が37人の女性とのセックスを書き留めた日記を発見して離婚を申請した。ところが弁護士として先手を打ち、妻にアルコール依存症の濡れ衣を着せて4人の子どもの親権を奪い、妻は自殺した。
「パレスチナ人など存在しない!」 ひどい人事はまだ続く。国防長官に指名されたピート・ヘグセスはFOXニュースの司会者としてテレビでトランプをずっと応援していた。元州兵としてイラクとアフガニスタンに派遣されているが階級は少佐。それで将軍たちを指揮するの? しかもパレスチナ国家を認めないと発言しているイスラエル・シンパ。胸には「エルサレム十字架」のタトゥーをしている。それは聖地エルサレム奪回を意味するキリスト教右翼のシンボルだ。
駐イスラエル大使に指名されたマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事もキリスト教右派の牧師で、やはり「パレスチナ人など存在しない!」と断言すらしている。彼の娘は第一次トランプ政権の広報官だった。
そして国連大使にニューヨーク州のエリス・ステファニク下院議員。ハーヴァードなどの大学でイスラエルのガザ攻撃に抗議して学生たちがデモをした際、彼女はその学長3人を議会に召喚し、学生デモを取り締まらないのは反ユダヤ主義だと糾弾、2人を辞任に追い込んだ。そんなイスラエル・シンパをイスラエルに抗議している国連に送り込むの?
ステファニクは最初、共和党主流派としてトランプを批判していたが、多勢に無勢と悟って、トランプに謝罪して軍門に下った。「わしにひざまずけば国連大使にだってしてやるよ」というわけだ。
絶対に選んじゃいけない人だけを選んだ逆人選の嵐! しかも、それはまだ始まったばかり……。