町山智浩の言霊USA 第746回 2024/11/09

“I need the kind of generals that Hitler had”(ヒトラーに仕えたような将軍が欲しいよ)byドナルド・トランプ前(?)大統領

 この原稿を書いている時点ではアメリカ大統領選は大接戦。イーロン・マスクが100万ドルをバラまく選挙違反的な作戦でトランプの支持率を伸ばしており、いつも冷静なオバマ元大統領もデトロイトの集会で珍しくキレ気味にトランプをDisりまくっていた。

「トランプは億万長者なのに何であんなに熱心に物販(ぶっぱん)してるの? 金ピカ(きんぴか)のスニーカーにトランプのサイン入り聖書。しかも中国製!」

「学生の時マクドナルドでバイトしてたカマラ・ハリスに張り合って(はりあって)トランプもマックで働いてみせた。閉店中の店で! 自分じゃパンクしたタイヤも交換したことないくせに!」

「もし君のおじいさんがトランプみたいだったら心配になるぞ。『うちのじっちゃんが壊れた!』って」

 でも、今の自分には大統領選の結果はまだわからない。だから、どっちが勝つと何が起こるか、予想してみよう。

 もしトランプが勝ってまた大統領になったら?

「報復だ!」

 2月のCPAC(保守政治活動会議)でトランプはそう演説した。自分の敵に復讐すると。具体的には自分を批判したテレビ局の放送免許の認可を取り消し、自分を刑事告訴したジャック・スミス特別検察官を起訴すると。それにバイデン大統領も。トランプの頭の中ではスミスに自分を起訴させたのはバイデンで、選挙の票を自分から盗んだのもバイデンなので(何の証拠もないが)。さらに「カマラ・ハリスも起訴する!」とも言っている(何の容疑か不明)。

 でも、証拠なんてなくてもトランプが大統領になればそれができる。司法を支配下に置けばいい。

 トランプの元閣僚たちがシンクタンク「ヘリテージ財団」で作成した「プロジェクト2025」には、司法省内の反トランプ勢力を粛清し、トランプに忠誠を尽くす者と入れ替える計画が書かれている。トランプは「プロジェクト2025なんて知らん」と言っているが、彼は前の任期でも自分に逆らう司法長官とFBI長官を解任してるから今度もやるだろう。長官の入れ替えには上院の承認が必要だが、「長官代理」にすれば承認はいらない。前の任期でもそうした。

 起訴してしまえば、最高裁は判事9人中6人が共和党による指名の保守派で、うち3人がトランプに任命されたから、トランプの言いなり。

 それは独裁だろって? そのとおり。トランプはヒトラーになりたいの!

 10月22日、トランプの首席補佐官を務めたジョン・ケリー元海兵隊大将がインタビューでトランプとの会話を暴露(ばくろ) した。ケリーがあんまり自分の言うことを聞かないのでトランプはぼやいた。「なぜ君はドイツの将軍たちみたいに私に従順になれないのかね」

「それってまさかヒトラーの将軍たちのことじゃないですよね?」

 ケリーが確かめるとトランプは答えた。「ああ、ああ、ヒトラーの将軍たちだよ」

 ケリーはしばらくして解任された。もちろんトランプは「そんな会話してない!」と否定しているが、ケリーは「トランプは何度もヒトラーや他の独裁者たちを賞賛した」と述べており、「意見が違ってもアメリカ国民を軍で制圧しちゃダメ!」「大統領よりも憲法が上ですよ!」といくら言っても理解しなかったという。

 では、世界はどうなるか。同じくトランプの補佐官だったジョン・ボルトン(安全保障担当)は「トランプはNATO(北大西洋条約機構)を脱退する危険性がある」と警告している。実際、トランプは、NATO同盟国が拠出金(きょしゅつきん)負担の義務を果たさないと、ロシアに「やりたい放題させるぞ」と脅している。

 ウクライナも風前の灯(ともし)だ。トランプはアメリカのウクライナ支援に反対で、10月17日のインタビューでは「ゼレンスキーは戦争で儲けている。この戦争はあいつが始めた」と言った。違うよ! あんたの大好きなプーチンが攻め込んだんだよ!

さて、どっちが勝ちました?

 では日本は?

 トランプはNATOと同じく日本や台湾についても「守ってほしけりゃ金をもっと寄越せ」と繰り返している。トランプはそれがビジネスだと威張っているが、安全保障は商売じゃないよ。アメリカがロシアのウクライナ侵略を容認すれば、ロシアだけじゃなく、ロシアに莫大な支援をしている中国と、約1万人もの兵士を派遣した北朝鮮も調子づく。それこそ日本も「やりたい放題」されちゃうよ!

 では、もしトランプが負けたら?

 トランプは既に「自分が負けるのは選挙に不正がある場合だけ」と、前回同様、負けを絶対に認めない構え。討論会やインタビューで「選挙結果を平和的に受け入れますか?」と何度聞かれても「はい」とは言わない。トランプは必ずや、票の集計が終わる前に勝手に勝利宣言するだろう。

 選挙結果は1月6日の上下院合同会議で認定される。議長は副大統領であり上院議長であるカマラ・ハリス自身。4年前はここにトランプ信者が突入したが、まだ大統領はバイデンだから、今度は軍や警察で万全の警備態勢を取るだろう。ただ問題は議会の内部だ。

 選挙結果の認定は上下院(じょうかいん)で選ばれる新議員たちが。もし上下院の過半数を共和党が勝ち取れば認定を拒否するかもしれない。認定されなかった場合、ルール上は下院議員による投票で大統領を決める。そんな事態は選挙や民主主義の否定となるので、まさか起こらないだろうが、トランプは今までその「まさか」を現実にしてきたからね。

 さて、どっちが勝ちました?