町山智浩の言霊USA 第732回 2024-07-27

私はバイデンが好きだけど、新しい大統領候補が必要だ)by ジョージ・クルーニー

I Love Joe Biden. But We Need a New Nominee.

 6月27日のバイデン大統領とトランプ前大統領のテレビ討論は、81歳という史上最高齢の大統領になったバイデンがしばしば口を開けたまま動かなくなったり、ゴルフのスコアを自慢するという「さんまのご長寿早押しクイズ」状態に終わった。

「さんまのご長寿早押しクイズ」とは、日本のテレビ番組「さんまのスーパーからくりTV」で放送されていたクイズコーナーです。このコーナーでは、長寿の方々(高齢者)がクイズに挑戦し、知識や記憶力を競い合います。番組の司会を務めるのは、お笑いタレントの明石家さんまです。

クイズの形式は、一般的な早押しクイズと似ていますが、出題内容は長寿にちなんだものや、懐かしい話題が多いのが特徴です。高齢者の方々が元気に知識を披露する姿が視聴者に楽しんでもらえるため、人気のあるコーナーとなっていました。

 高齢のため、任期中に執務遂行(しつむすいこう)できなくなった大統領は過去にもいる。第28代大統領ウッドロウ・ウィルソンは、2期目の1919年、重い脳卒中(のうそっちゅう)で倒れ(当時63歳)、その後、エディス夫人が密かに執務を代行した。今では、彼女は「実質的(じっしつてき)に史上初の女性大統領」と呼ばれている。

 ロナルド・レーガン大統領も、実は就任から3年目に認知症を発症していたが、それから5年間、家族やスタッフは症状を隠しとおした。

 そんな風に隠すことはネット時代には不可能。討論会直後のニューヨーク・タイムズ紙の調査では回答者の7割がバイデンは大統領には高齢すぎると答え、トランプの支持率はバイデンを6ポイント上回った(うわまわった)。

「アメリカのためにバイデンは出馬を断念すべき」6月28日、ニューヨーク・タイムズ紙の社説だ。

「嘘で固めたトランプを倒すのは誠実さだ。つまり、バイデンでは選挙を戦えないと認めることだ」

 でも、民主党にその勇気がある者はいなかった。7月9日、ニューヨーク・タイムズ紙は、民主党内ではバイデン氏を降ろすために、彼が「公(おおやけ)の場所でもっと大きな失態をしでかすことを願っている」という記事を出した。童謡「待ちぼうけ」みたいに、バイデンが転ぶのを待ってるの?

し 語構成の区切り でか ・ す アクセント 【仕出かす・ 為常用漢字表にない読み方 出 来常用漢字表にない読み方 す】 ( 動 サ 五 [ 四 ] ) 語義区分 1 してしまう。やってのける。困ったことを引き起こす場合に使う。 「大それたことを ─ ・ す」

「私はバイデンが好きだけど、新しい大統領候補が必要だ」

 そう書いたのはハリウッド俳優ジョージ・クルーニー。彼は7月10日付のニューヨーク・タイムズに寄稿した。ちなみにクルーニーはもともとテレビのニュースキャスター志望で、大学では放送ジャーナリズム専攻。

「私は民主党員として、先月はバイデン大統領の再選に向けて、資金調達イベントを主催しました。悲しいことに、そこで会ったバイデンは、2020年にトランプに勝ったジョー・バイデンではありませんでした。先日の討論会で私たちが目撃したとおりです。

 これは年齢の問題です。残酷ですが、彼ではもう選挙で勝つことはできません。

 投票日までわずか3カ月の今、候補者を変えるとなれば大混乱は避けられないでしょう。でも、その混乱は、バイデン対トランプという大統領選に関心を失っていた多くの有権者を目覚めさせる(めざめさせる)でしょう。

 ジョー・バイデンは英雄(えいゆう)です。彼は4年前、トランプから民主主義を救いました。今回も同じことをしてほしいのです」

 トランプはすぐに「ジョージ・クルーニーは政治に首を突っ込むな」と反応。「テレビに戻れ。映画はうまく行ってないがね」と余計な嫌味(いやみ)をつけた。バイデンのピンチヒッターが出てくれば、自分が不利になると知ってるからだろう。

 翌7月11日はバイデンの正念場だった。ワシントンで開かれたNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議の後の記者会見で、記者の質問にきっちり答えられるかどうか。それが大統領候補としての「最後のテスト」だと言われ、全米が注目した。でも、やらかした。

やらかす 《遣らかす[rK]》 (v5s,vt) (1) (col) (uk) to do (something negative); to make (a blunder); to commit (an error); (v5s,vt) (2) (col) (uk) to eat (up); to drink [Links] (1) ダンというのは全くハズれた奴だ。次に何をやらかすか見当もつかない。 Dan's completely off the wall; you can't predict what he's going to do next.[Amend]

 このNATO会議はウクライナに対する支援続行(ぞっこう)が最大のテーマ。トランプは大統領選で自分を支援してくれたプーチンと親しく、自分が再び大統領になったらウクライナへの支援を打ち切り、その東部をロシアに譲ることで戦争を終わらせると公言している。そうなればロシアについている中国や北朝鮮は勢いづいて、世界は危険になるだろう。

と、書いてたら…

 首脳会議でバイデンはウクライナのゼレンスキー大統領を壇上に招いた。

「レディース・アンド・ジェントルマン、プーチン大統領です」

 さすがに間違いに気づいたバイデンはすぐに「プーチンをやっつけることばかり考えてたので間違えた」と言い訳したが、宿敵の名で呼ばれたゼレンスキーの困った表情!

 それから2時間後の記者会見。バイデンは出馬を断念するつもりはない、と強調したが、副大統領カマラ・ハリスの能力を疑う質問に反論する時にまた言い間違えた。

「彼女に能力があるから、私は副大統領に指名したんですよ。トランプを」

 ……ダメだ、こりゃ……。

 記者会見後、民主党議員が次々とバイデンの出馬辞退を求めた。トランプは大喜び(おおよろこび)で「ジョーもがんばったじゃないか」とSNSで皮肉ったが、78歳の自分だって似たようなものだ。自分の閣僚だったニッキー・ヘイリー元国連大使をナンシー・ペロシ元下院議長と間違え、自分の副大統領候補ナンバーワンのJ・D・ヴァンス上院議員を紹介する時も名前が出なかった。「J・D……なんだっけ……J・D・マンデル!」誰や、それ!

 半ボケの頑固ジジイたちが世界の運命を握っている。こうなったら憲法修正25条しかない。第4項には、副大統領と閣僚が、執務不能に陥った大統領から強制的に権力を取り上げられる規定がある。そんな事態になる前にカッコよく後進に道をゆずってほしい。

 と、書いてたら、トランプが集会中に狙撃(そげき)された。弾丸は耳を貫通し、1センチの差で無事だった。そして、星条旗を背にガッツポーズ。これでヒーローとなったトランプはいっきにバイデンより前に出た。しかし、いくら乱射事件が起こっても銃を規制せず、選挙を暴力で踏みにじろうとした男が、撃たれて英雄になるなんて!