林真理子 夜ふけのなわとび 第1860回 2024/10/11

秋が来た|

 今週、目覚ましを7時半から8時にした。それは今度の朝ドラを、

「もう、いいか」

 と判断したからである。

 何度も言っているが、朝ドラのヒロインは、半年を共にするクラスメイトだ。そこにいくと、「虎に翼」の寅ちゃんは、心の底から好きになった親友である。彼女に会うために、前夜どんなに遅くなっても7時半に起き、玄関を開け身じたくを整えた。

「ずっと録画しとけばいいじゃん」

 という人は多いが、リアルタイムでクラスメイトに会うのは私の朝の儀式であった。

 略称「トラつば」にハマった女友だちは実に多く、今度友人の家に集まり、第一話から見ることになった。題して「トラつばマラソン」。

 週に一度、バレエヨガに集まる仲間は7人ほどで、職種はそれぞれ違うがとても仲がいい。私は後から加わったのであるが、元々は熱心なヅカファンたちの集まりである。

ヅカファンですか!宝塚歌劇団の魅力はたくさんありますよね。好きな作品やキャストはいますか?

 だからたまに誰かのうちに集まって飲み会をすると、ずうっと宝塚のDVDを流すことになる。この時に、〇〇さんがどーした、こーした、という会話が延々と続き、私はとてもついていけなかったのであるが、今回はトラつばだから大丈夫。おまけに、

「キリタンポ鍋にしようね」

 という楽しい約束が。

 どうしてキリタンポかというと、バレエヨガの先生のカノジョさんが秋田出身で、取り寄せてくれることになったからだ。

取り寄せる[P]; 取寄せる 【とりよせる】 (v1,vt) (1) to order; to send away for; to have (something) sent to one; (v1,vt) (2) to pull (something) closer; (1) お取り寄せいたしましょうか。 Would you like me to order it?

「新米のキリタンポは、そりゃあおいしいらしいよ」

 新米といえば、このあいだ届いた新米のことも既にお話ししたと思う。新潟県の県庁に勤める友人が、

「日本でいちばんおいしいお米」

 と言って、毎年送ってくれるのだ。今年は同時期に、加島屋の瓶詰め(びんづめ)セットもいただいた。同じ故郷のおいしいものたちが、こうして東京でめぐりあっている。

「そうだ、おむすびをつくろう」

 ちなみに私があまり仲よくなれないと判断した、朝ドラのタイトルは「おむすび」。第一回にいかにもおいしそうなおむすびが出てきた。あれをつくってみよう。

 たまたま遅くうちを出ることになっていたので、3合炊いておむすびをつくった。

「お米は、魚沼(うおぬま)のコシヒカリの新米、お塩は金沢に行った時に買った能登の塩、海苔はお鮨屋さんがくれた有明。中身は加島屋の鮭とイクラ。そのおいしいことといったら。私はあっという間に3個食べちゃったわよ」

 と日大で自慢したら、

「塩むすびでいいから食べたい」

 とまわりに言われたので、今日は朝、早起きして4合炊いた。持ち歩くのに中身がイクラだとちょっとコワいので、梅干しにすることにした。梅干しは山梨の親戚が送ってくれたもの。なかなか食べる機会がなかったのであるが、ここに来ていっきに消費することになる。おむすびはさまざまな貰いものを吸収していく懐ふところの大きさを持つ。

郷さん(きょうさん)に大感激

 そしてこんなことをしている間にも、秋は確実にやってきている。10月になってからも、突然真夏日(まなつび)が来たりするが、それでも朝晩はひんやりとしている。

「日本はもう夏と冬しかない」

 と脅かされて久しいが、それでもやっぱり秋は来る。夜の空気がまるで違う。そして秋の夜だけに訪れるあの清澄さ(せいちょうさ)。

 このところ読まなければならない本が多いので、夜の会食は出来るだけ避けて仕事場に向かう。そしてCDをかけて、ゆっくりとページを開くと、本当に満ち足りた幸福な気分になる。

 CDは郷ひろみさん。

 先週の日曜日、渋谷のNHKホールで郷さんのコンサートが開かれた。毎年友人と2人でこのツアーに行くのを楽しみにしていたのであるが、急きょ彼女が来られないことになった。

 あまりにも時間がなく、しかも日曜日。たまたま仕事で終日一緒だった秘書のセトに声をかける。しかし20代の彼女に郷さんのすごさがわかるか。

「郷ひろみさんでございますか……」

 彼女は感慨深げに言った。

「若い時の話で、今はもう見る影もありませんが、私の父は郷さんにそっくりだったそうです。“博多の郷ひろみ”と呼ばれたこともあったとか」

「へぇー」

「うちの母は郷さんの大ファンで、それで父のことを好きになって結婚したんです。ですから私の出生のルーツにかかわる郷さんを、ひと目拝見したいと思っておりました」

 話がなんだか大げさになったが、とにかく2人でNHKホールに向かう。ホールは、女性たちで大満員である。中年も多いが、若い人もいっぱい。

 コンサートの前には郷さんと面会出来、一緒に写真を撮ってもらった。セトは大感激である。

「さっそく母に見せたいと思います。ものすごく喜ぶと思います」

 彼女のお父さんは見る影もないそうであるが、ステージの郷さんは昔のまんま。すらりとした体。長ーい脚。ダンスも完璧。声ときたら以前よりもずっと豊かで、味わい深いものになっている。今年のステージはレーザーを駆使し、演出も凝っていてそれはそれは楽しいものであった。何よりも郷さんの歌のすごさといったら……。アップテンポの歌もいいが、バラードの素晴らしさといったら今や日本でいちばんだと私は思う。この前日、「旅サラダ」を神田正輝さんがお退きになった。

「松田聖子さんの元ダンは事実上引退されて、元カレはこうして第一線で変わりなく活躍している。ふーむ、何という運命であろうか」

 といろいろ思いにふける秋の日の私であった。 「うちの母は郷さんの大ファンで、それで父のことを好きになって結婚したんです。ですから私の出生のルーツにかかわる郷さんを、ひと目拝見したいと思っておりました」

 話がなんだか大げさになったが、とにかく2人でNHKホールに向かう。ホールは、女性たちで大満員である。中年も多いが、若い人もいっぱい。

 コンサートの前には郷さんと面会出来、一緒に写真を撮ってもらった。セトは大感激である。

「さっそく母に見せたいと思います。ものすごく喜ぶと思います」

 彼女のお父さんは見る影もないそうであるが、ステージの郷さんは昔のまんま。すらりとした体。長ーい脚。ダンスも完璧。声ときたら以前よりもずっと豊かで、味わい深いものになっている。今年のステージはレーザーを駆使し、演出も凝っていてそれはそれは楽しいものであった。何よりも郷さんの歌のすごさといったら……。アップテンポの歌もいいが、バラードの素晴らしさといったら今や日本でいちばんだと私は思う。この前日、「旅サラダ」を神田正輝さんがお退きになった。

「松田聖子さんの元ダンは事実上引退されて、元カレはこうして第一線で変わりなく活躍している。ふーむ、何という運命であろうか」

 といろいろ思いにふける秋の日の私であった。