夜ふけのなわとび 第1839回 2024/04/19

高知愛プラス

 ひと頃(ひところ)、私の“高知愛”はかなりのものであった。

 15年前、エンジン01のオープンカレッジで行った時のことである。歓迎パーティーで、まず行なわれたのは、カツオの燻り焼き(いぶりやき)ショーであった。出来たてのカツオのタタキが、これでもか、これでもかと供される(きょうされる)。

 それまでカツオのタタキを特別おいしい、と思ったことなど一度もなかった。スーパーで買ったものを食べていたからだ。

鰹のタタキ(かつおのタタキ)は刺身の一種で、高知県発のカツオを用いた料理。 鰹を節に切り、表面のみをあぶったのち冷やして切り、薬味とタレをかけて食べるもので、別名「土佐造り」とも言う。

 が、その夜のタタキは衝撃的であった。カツオだけではない。屋内のパーティー会場へ行くと、いろいろな屋台が出ていた。寿司、お饅頭、鶏肉、おそばなど、高知各地の名物を持ってきてくれたのだ。

 高知民は人をもてなすことを自分の喜びとしている。お酒が大好きで、陽気で親切。日本で唯一のラテン民族ではないかと思っている。

 その後、高知県観光特使になった私は、何度も何度も高知に出かけた。友人にも高知ファンになってもらおうと、ガイドを買って出たのだ。

 コースにはもちろんお座敷遊びを入れた。当時地元は芸者さんを復活させ、伝統の遊びを残そうと頑張っていたのである。負けた人が盃を空にするゲームは本当に楽しく、お女将がおしぼりの人形を、割り箸(わりばし)を使って踊らせる余興は、見事としか言いようがなかった。大好きな大好きな土地である。

 しかしこの数年間はあまりの忙しさのため、足が遠のいていた。あの頃の知事さんや市長さんが代わられたことも大きい。

 つい最近のこと、校友会(こうゆうかい)総会のリストを見ていた。それは全国の日大校友会の支部からの、総会に来てくれませんか、というお誘いである。卒業生126万人、日本各地の校友会のかなりの数を、学長や私、副学長や常務理事たちが手分けして行くことになるが、あまりにも多過ぎてとてもまわりきれない。そういう時は事務局のトップが行く。

「ふむふむ、網走(あばしり)支部か……。ここも楽しそうだけどまだ寒いし、このあいだ札幌の校友会に行ったばっかりだしな」

 この時、高知という文字が目に止まったのである。

「高知なら行ってみたい」

 しかし平日の昼間とある。

「土日にしてくれたら行けるのに。私と高知とは特別の間柄(あいだがら)なのに……」

 とぶつぶつ言っていたら、

「あちらに聞いてみましょうか」

「え、そんなこと出来るんですか」

「まだ時間があるから、変更してもらえるかもしれません」

 ということで3月末に行くこととなった。当然泊まることにする。ちなみに大学から支給される宿泊費(しゅくはくひ)はアパホテルも泊まれない金額であるが、

「高知行って日帰りのわけないじゃん、自分で足していいホテル泊まろう」

 ところが、春になり観光シーズンが始まった。市内のビジネスホテルがやっととれた。

「でも後ろの道が日曜市だよ。早起きして行こうね」

「日曜市やってるんですか」

「高知の日曜市って言ったら有名ぜよ。そりゃ楽しいぜよ」

 秘書に向かってつい土佐弁になる。

「新鮮な野菜や果物を売る店がずーっとお城の方まで続くぜよ。中でもお芋の天ぷらがすごい人気やね」

 当日は早めに高知に着いた。“帯屋町(おびやまち) ”をぶらぶら歩いたが、以前と比べるとぐっと人通りが少なくなったような。お茶をしようにも閉店が5時のところばかり。しかもタクシーの運転手さんから、

「屋台のラーメンは今日で終わりだよ」

 と驚くような事実を。もともと無許可で営業していたので撤去を迫られたようだ。お酒の後に、必ず寄ったラーメンが食べられなくなるとはまことに残念だ。高知も少しずつ変わろうとしているのか……。

“お帰りなさい”

 さて、校友会総会は土佐料理のお店で行なわれた。50人以上が集まっている。校友会会長はじめ、地元の皆さんは、エンジンのことも、私の高知愛もよくご承知であった。

「理事長に“お帰りなさい”と言いたい」

 とおっしゃってくださり感激する。そして私はまず昨年の不祥事を謝罪。実は私たちが全国をまわっているのもこのためなのだ。

 最初はやや固い雰囲気であったが、やがてお酒が入り楽しい宴会に。

 カツオのタタキや鶏鍋などご馳走が次々と出てくる。高知の財界の方々がずらっと揃って、私の隣の席は、あの有名なミレービスケットの社長さん、向かいは酔鯨(すいげい)の社長さんであった。特別な瓶を差し入れてくださる。

 私は日本酒だとすぐに酔うのであるが、おいしくていくらでも入る。まるっきり酔わない。

「おたくのリジチョー、よく飲むね。大丈夫かね」

 と離れた場所に座る秘書は言われたそうだ。しかし高知の空気は私とよほど合うのか、ビールも日本酒もがんがんいける。お酒が入るほどにどんどんお喋りになる私。

「リジチョーは、本当に気さくな人だねー。テレビで見てるとおっかないけど」

「あれは記者会見ですからね。私は明るくて面白い人キャラでずっとやってきたんですよ」

 二次会でバーに連れていってもらったが、ここでもウイスキーをたっぷり飲んだ。しかし酔った感覚はまるでなく、次の日の二日酔いもない。

 秘書と2人、元気に日曜市を歩く。私のご贔屓(ごひいき)の水田製菓もすぐに見つけた。

「日本一おいしい芋ケンピ」

 という私の色紙もちゃんと飾ってくださっている。いっぱいおまけもしていただいた。

「知り合いもいてハヤシさんって、本当に高知詳しいですね」

「あたり前じゃん。私、ずっと観光特使だったんだよ。ハンパなく高知好きなんだよ」

 3日後、ミレービスケットがダンボールで届いた。先輩ありがとうございます。

 今の私は高知愛プラス母校愛であります。