ツチヤの口車 第1346回 土屋 賢二 2024/06/22
免許返納を進める方法
高齢ドライバーの暴走事故が後をたたない。免許返納促進に取り組んでいる替瀬麺挙(かえせめんきょ)氏に話を聞いた。
――免許返納運動を始めたきっかけは何ですか?
「痛ましい事故が多すぎる。子どもたちが教えられた通りに手をあげて渡っているところに車が突っ込んでくるのだ。運転する高齢者はたいてい助かり、子どもが犠牲になる。船が沈没して救命ボートにあとわずかしか乗れないとき、高齢者が子どもを何人も押しのけて乗ろうとするようなものだ。これが許せるか?」
――許せません。免許の返納が必要です。
「老人は視力も聴力も反射神経も衰える。認知能力も衰え、道端に高齢男性がいると思ったら高齢女性だった。と思ったら冷蔵庫だったと思ったらポストだった、ということが起こる。歩行者がボウリングのピンに見えて、あのピンを狙えば(ねらえば)ストライクが取れると思うようになってからでは遅い」
――車がないと病院に行ったり買い物をしたりできなくなると言う人もいます。
「過疎地ほどオンライン診療を活用すべきだ。残り少ない貴重な時間を病院通いで浪費しないですむように。買い物もネットで注文してドローンで届ければいい。いっそ公営団地か空き家に転居してもらえば、車は不要になる」
――タクシー券を配れと言う人もいます。
「だがタクシーの運転手が自分より歳上だったりする。80歳を越す運転手もいるのだ(どうしても運転したければタクシーの運転手になる手がある)。タクシーの暴走事故もある」
――車の改良も必要ですね。
「技術大国の日本なら『危険! 高齢者暴走中』と真っ赤な太字(ふとじ)で書いた看板を車の正面に貼るぐらいの技術力はあるはずだ」
――なぜ高齢者は車に乗りたがるんでしょうか。
「ほかに楽しみがないんだ。仕事もさせてもらえない。ペットを飼おうにも、高齢だと保護犬も引き取れない。ジェットコースターにはまず乗せてくれない。公園に行ってベンチに座ると、いまのところ不審者と通報されるだけだが、そのうちブランコやすべり台も禁止になる。電動車椅子も禁止されるかもしれない。手足を縛られているに等しい(ひとしい)。走るのも禁じられ、スケボーやムーンウォークやバック転まで禁止されかねない」
――できるんですか?
「できない。練習してできるようになったとたんに禁止されたら泣くに泣けん」
――運転に自信をもっている人が多いみたいです。
「何もかも禁じられ、手足を縛られている状態で、できるのは運転ぐらいだ。運転を奪われたら自分の尊厳が失われてしまう。唯一の命綱まで奪われてたまるかと思って死守(ししゅ)する気になるのだ。運転には自信があるといっても、半分意地だ」
――返納パンフレットのこの箇所を説明してください。
「読んでくれないか。よく見えないんだ。最近、家の中でもあちこちぶつかる」
――緑内障(りょくないしょう)では?
「緑内障の家系だ。運転中に急に人が現れたり消えたりするからスリル満点だ」
――えっ、運転するんですか? なぜ免許返納しないんですか?
「免許は返納した。5年前、85歳のとき。免許返納しない人に対して抱く根本的な疑問は、そんなに乗りたいなら、なぜ無免許で乗らないのかということだ」
――えーっ! 無免許運転を勧めるんですか? 法律違反の教唆(きょうさ)になりますよ。
「無免許でも2回逮捕されただけだ。それぐらいの覚悟で乗れと言いたい」
――失礼します!
「駅は遠い。車で送ろう」
――結構です!
「タクシーを呼ぼうか? 兄が個人タクシーをやってるんだ」
――結構ですっ!