熱湯をかけ下腹部を切り…“29歳彼氏殺害女”の履歴書

 裸で足を伸ばし、浴槽の中でぐったりする男性。胸や背中は火傷(やけど)で赤くただれ、下腹部(下ふくぶ)には何度も切りつけられた痕(あと)が。同棲していた女性はこう述べた。

「熱湯(ねっとう)はわざとじゃない。カップ麺のお湯を運ぼうとしてかけてしまった」

 大阪市浪速区(なにわく)桜川(さくらがわ)。大阪を代表する繁華街・ミナミと、若者に人気の街・堀江の隣にある住宅地のマンションに、消防と警察が急行したのは4月30日夕方のことだった。

「同居の男性が風呂場で意識がない」と119番通報したのは無職・谷口桃花(たにぐち ももか)容疑者(29)。緊急搬送された交際相手のアルバイト・西野太九(たく)さん(31)は、後に病院で死亡が確認された。

谷口桃花.png

 谷口は西野さんが風呂場に行った約15分後、浴槽につかって倒れているのに気付いたと説明。「消防の指示で浴槽から水を抜いた」とも供述している。

「翌日、司法解剖したところ、死因は水を吸い込んだことによる窒息(ちっそく)と判明。谷口が熱湯をかけ、平手で複数回叩いたこともわかり、傷害と暴行の容疑で逮捕。火傷は重度(じゅうど、severe)で、下腹部には複数の切り傷があり、陰部(いんぶ)が切られていたという情報もある。警察は殺人も視野に入れて捜査しています」(社会部記者)

 谷口は「睡眠薬を飲んでいて記憶があいまい」などと供述。容疑を一部否認しているという。

 1994年、紀伊半島南部に位置する和歌山県の古座地域に生まれた谷口。建設会社で働く父と、地元の飲食店でパートとして勤務する母のもと、串本町の町営アパートで、1つ年下の弟とともに暮らしていた。

 幼い頃は明るい性格だったという谷口だが、地元の小学校に上がると周囲から浮き始める。

「授業中に教室を飛び出してどこかに行ったり、後ろのロッカーに突然寝そべったりしていました。普段はおとなしいのに急にそんなことをするから、ただただ不思議な子という感じ。友だちもほとんどいなかった」(小学校の同級生)

 中学では卓球部に入ったが、やがて不登校に。母親は進学先について周囲に悩みを吐露(とろ)していたという。

「娘が学校に馴染めないのを気に病み、『特別支援学校に行った方がいいのではないか』と本人に持ちかけたこともあったそうです。結局、桃花が嫌がり、地元の串本古座高校の普通科に進学した」(母親の知人)

 高校での谷口の様子について同級生が語る。

「学校では暗い感じの子でした。ロングの黒髪(くろかみ)をセンターで分けて、顔の両サイドを隠すような髪型。スカートも足元までの長いものを穿いていて、ちょっとメンヘラっぽい雰囲気でした」

 本人の希望で進学したものの、母親の不安は的中。

「また不登校になり、出席日数(にっすう)が足りずにこのままでは卒業できないと、別の高校に転入した。でも、そっちでもうまくいかなかったようです」(前出・知人)

 数年後、地元で目撃されたのは、谷口が年上の男性と寄り添って(to cuddle close together)歩く姿だった。

「桃花は20歳くらいの時、40歳の人と付き合っていました。当時は可愛らしい顔をしていて、水商売をやってそうな雰囲気。男が切れることなくモテていました(popular with men, ans never run out)。ただ、リストカット(wrist-cutting syndrome)を繰り返していたみたいです」(地元飲食店関係者)

 化粧をすれば西野カナにも似ていたという谷口。そんな彼女の前に現れたのが、高校の先輩の西野さんだった。中学の同級生が語る。

「西野は『タクちゃん』と呼ばれ、地域のサッカークラブに所属していました。子どもが好きで保育士になりたいとも言っていた。優しい性格で、SNSでも何かあれば『元気?』と声をかけてくれます。ただ、気が弱く、先輩にパシリ(使いっ走り」を略した俗語)強い者に命じられて使い走りをする人)にされても断りきれないようなところがあった」

 谷口は以前、フェイスブックにサメがアザラシに噛み付いている写真を投稿。それにコメントした西野さんに、こう返信している。

〈ももか→サメ 食われてるアザラシ→お前〉(15年11月18日)¥

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 対する西野さんは、谷口の誕生日にこんなメッセージを送っている。

〈親友!やねんから何でもいつでも相談とかしてこいよ! 夜中にご飯は身体に悪いから、早めに食べなよ?〉(16年1月13日)

“親友”だった2人はやがて、交際するように。

「6年ほど前、串本町の秋祭りに2人で来ていて、付き合っていることを知りました。タクちゃんは高校卒業後、大阪の電気機器メーカーの工場に勤めていたけどリストラに遭い、その後は居酒屋などのアルバイトを転々としていた。後から大阪に来た桃花とくっついたようです」(前出・知人)

 そして冒頭のマンションで同棲を開始。家賃約9万円、1SLDKの部屋で、2人の関係は変容していく。

「2人とも身長160センチ台で小太りの体型。週に一度は女性が怒鳴りちらし、『許さない!』という声に男性が『落ち着けよ』とたしなめていた。長いときには1時間ほど続き、少なくとも2回は警察が来ていました」(近隣住民)

 事件当日も谷口の怒声が響き、やがて静かになったという。前出の知人が語る。

「事件当日の夜、報道される前に『大阪のタクちゃんの様子がおかしいから母親と連絡を取りたい』というLINEが地元で拡散していた。おそらく桃花が発端で、ニュースが出た瞬間、『ああ桃花、やりよったな』って……」

 激しい“暴行”を受けた西野さんだが、抵抗した様子はなかったという。


「やりよったな」とは、関西地方などで使われる方言で、「やってやったぜ」という意味です。自分が何かを達成したときや、他人が何かを達成したときに使われることがあります。