「週刊文春」編集部 2023/05/06
「経済低迷」と「5月反攻」でプーチンに迫る危機
開戦から1年が経ったロシアとウクライナの戦争。いまだ強気(きょうき)の姿勢を崩さないロシアのプーチン大統領を待ち受ける運命は――。
目下(めした)、注目はウクライナによる反攻作戦だ。温存してきた戦力を一気に繰り出すとされる。元読売新聞モスクワ支局長の古本朗(ふるもと あきら)氏が解説する。
「すでにアメリカがエイブラムス戦車を31台供与し、ウクライナ軍に対し運用訓練を10週間ほど行うと発表しています。訓練が終わり次第、戦線へと投入されるでしょう。他方、ロシア軍は約60年前の旧ソ連軍の戦車であるT-62を使っているとの情報も出てきていて、戦力の枯渇(こかつ)が指摘されます」
軍事評論家の黒井文太郎氏はこう分析する。
「新しい戦車の方が強いですが、野砲や航空機などとの連携も重要。作戦の優劣次第でどちらが勝つかはわかりません」
- 70歳を迎えたプーチン大統領
守る側となるロシア兵たちだが、肝心の士気の下がり方が尋常ではない。筑波大学名誉教授の中村逸郎氏((なかむら いつろう、1956年11月2日 - )が解説する。
「すでに約23万人が死傷し、正規軍の立て直しに躍起になっています。しかし、ロシア国内には厭戦気分(えんせんきぶん)が蔓延。プーチンが唯一見ているテレビ局と噂される第一チャンネルで、『家族に会いたい』と本音を漏らす兵士の映像を流していました。プーチン礼賛一辺倒のロシアメディアでは考えられないことが起こっています」
徴兵逃れも横行している。
「モスクワ国立大学では、寮に警官が押しかけて、徴兵を拒否する学生を次々と拘束。軍に引き渡しています。都市部では通りの防犯カメラに対象者が映れば、すぐに警察が身柄を抑える。若者たちはテレグラムで『もう森に逃げるしかない』と囁き合っています」(同前)
戦う気力を失いつつあるロシア軍。ウクライナ軍はどこを狙うのか。
「ウクライナの義勇軍が、ロシアからクリミア半島へと続く占領地のど真ん中ザポリージャ州のメリトポリを占領中です。これと連携して、南部に反転攻勢をかける可能性がある」(同前)
中村氏によれば、5月19日から開催される広島サミットまでに、「作戦は始まる」という。
一方のロシアでは経済が危機的状況だ。拓殖大学特任教授の名越健郎氏が語る。
「開戦当初こそ落ち込んだロシア経済ですが、中国やインドなどとの貿易でなんとか持ちこたえてきました。しかし、国際社会の制裁が、ここにきて効いてきた。石油や天然ガスの売却益が落ち込み、2023年1〜3月の財政収支が日本円にして約3兆9000億円の赤字となったのです。通貨安も進み1月に1ドル71ルーブルだったものが、4月上旬には1ドル82ルーブルに下落しています。プーチンお得意のバラマキ政策も難しくなってきた」