池上彰のそこからですか!? 第583回 2023/09/01
中国、不動産バブル破裂
中国の不動産不況が深刻な状況に陥っています。中国版不動産バブルが破裂したのです。大手不動産会社が相次いで経営危機に陥っています。これが中国(ちゅうごく)の若者の夢を押しつぶしているのです。
中国の不動産不況といえば、大手の「恒大集団」が経営不振に陥り、中国各地で建設中のマンションの工事が止まったままになっていると以前もニュースになっています。
「恒大」といっても大学ではありません。「恒(つね)に大きくなろう」という意味が込められています。凄い野心です。この巨大企業は、2016年には売上高で世界最大の不動産企業に上り詰めた(あがりつめた)こともあります。近年も不動産販売面積で中国2位。2020年の売上高は日本円で約8兆(はっちょう)5000億円にも上っています。従業員数が一時は20万人に上りました。
それが今回、アメリカで連邦破産法(れんぽうはさんほう)第15条の適用を申請したのです。遂に破産かと思われますが、実はちょっと違います。この条文は外国企業がアメリカ国内に保有する資産を保全する手続きを定めたものなのです。恒大集団はアメリカ国内にも投資をしてきたので、それなりの資産があります。それをカタに差し押さえられるのを防ごう(ふせごう)というものです。借金が返せないと、金を貸した相手から「金返せ」と要求されますね。グズグズしていると、資産を取り上げられてしまいます。それでは再建ができなくなってしまうので、いったん借金の返済を猶予(ゆうよ)してもらおうという仕組みです。
中国で二番目の不動産会社が苦境に立った結果、「それでは一番手は大丈夫なのか」という声が上がっています。それが「碧桂園」です。こちらは8月初頭に期日を迎えた社債の利払い(りばらい、利子(りし)の支払い)を実行(じっこう)できませんでした。借金返済どころか、その前段階の利子の支払いもできなくなっているのですから、事態は深刻です。
碧桂園は、中国でも地方都市でのマンション建設を進めてきました。「大都会のような優雅な暮らしができる」という謳い文句(うたいもんく)で客を集めました。中国のマンションは、完成前に売買契約を結びます。その結果、マンションの代金は払ったのに建物はまだ完成しないという物件が続出。大金(だいきん)を支払った人たちは怒りを爆発させています。
中国の不動産というのは、日本と異なり土地そのものを保有することはできません。土地は国有(こくゆう)。土地の使用権だけが売買できるのです。それでもマンション建設が進めば建設資材は飛ぶように売れ、GDP(国内総生産)も上昇します。これを期待した各省を牛耳る共産党幹部たちは不動産ブームを煽ります。自分の省(日本の都道府県に該当)でのGDPの数字を良くして中央から目をかけてもらえれば、出世の道が開けると期待するからです。
さらに2008年のリーマンショックに際し、中国は金利を引き下げました。金利が低くなれば銀行からお金を借りやすくなり、ブームに火がつきました。 「総量規制」でバブル消滅へ
この状況は過去の日本を髣髴とさせます。1980年代後期、日本は円高不況に苦しみ、日本銀行は金利を大幅に下げました。これでお金を借りやすくなり、土地を買ったり株を買ったりする人が増えたことで、不動産価格も株価も上昇。バブルが生まれたのです。
バブルで浮かれた人が多かったのですが、その一方で、真面目なサラリーパーソンから「不動産価格が値上がりしてマイホームが持てなくなる」という不満が高まります。
そこで当時の大蔵省が始めたのが「総量規制」でした。金融機関に対し、「不動産を購入するために金を貸してほしい」と言ってくる企業や個人に安易に金を貸さないようにしろというものでした。不動産取引への貸し出しは、不動産以外の分野も含めた総貸出の伸び率を上回らないようにするという指導だったので、「総量規制」と呼ばれたのです。
とはいえ、大蔵省の指示を受けた金融機関は、大蔵省の胸の内を忖度。「要するに不動産取引に必要な資金を貸し出すのをやめろ」ということだと受け止めました。
その結果、不動産価格が暴落し、不動産を担保に資金を貸していた金融機関は多額の不良債権を抱え込むようになり、経営破綻が相次ぎました。当時、日本政府も日本銀行もバブル退治に躍起になっていたことで、行き過ぎが生じ、結果的に日本経済をデフレにしてしまったのです。
では、今回の中国はどうなっているのか。こちらもお粗末でした。中国政府は2020年8月、不動産バブルを退治しようと、中国版総量規制を導入。不動産取引に金を貸すなと迫ったのです。
その結果が、全国に立ち並ぶ建設途中のマンション群です。資金繰りに苦しみ、建設を継続することができなくなった状態です。「日本化」と揶揄されています。反日の旗を振っていたはずの中国が、30年前の日本のようになってしまった、という皮肉として使われています。
そんな中国の不景気は若年層の失業率の上昇をもたらしています。16歳から24歳までの若年失業率は、今年4月から6月まで3カ月連続で20%を超え、遂に7月に関しては数字の発表を取りやめてしまいました。「失業率の計算方法の見直しをすることになった」と当局は説明していますが、要は高い数字を公表することは好ましくないということでしょう。
とりわけ就職活動中の大学生にとっては辛い夏です。中国は近代化を進めるために大学の増設を進めた結果、大学数は1270にまで増えました。また大学と共に高等教育機関とされる専門学校数も1489。この学校から毎年約1000万人が卒業します。これだけの学生を満足させる就職口は中国にはありません。「大学は出たけれど」の嘆きは、いまの中国の悩みでもあるのです。