池上彰のそこからですか!? 第570回 2023/05/19

「地下で水が動いて」地震?

 石川県の能登地方で続いている地震。これだけ地震が続くと、「群発地震(ぐんぱつじしん)」と呼ばれます。では、どうして群発しているのか。ニュースを見ていると、「地下で水のような流体(りゅうたい)が動いているから」という説明がされます。でも、なんだか不思議ですね。「地下で水が動いている」というと、「地下水のことか?」と思ってしまう人もいるかも知れませんが、そうではないのです。

 でも、「流体」とは何のことでしょうか。専門家たちは「水だろう」と思っているのですが、直接目で見て確認したわけではないので、「水のようなもの」という意味で「流体」という表現を使っているのです。専門家は慎重な言い回しをしますからね。ここはもう、水だと考えていいでしょう。

 今回の地震は、通常起きる地震のタイプとは異なっているため、専門家たちも断言できないでいます。そこで当欄では、そもそも地震はどうして起きるのか、というところから解説しましょう。地震が起きるタイプとしては、通常3つのケースが考えられます。

 1つ目は「プレート境界型地震」です。地球の中心部にはマントルという高熱の岩石(がんせき)があり、ゆっくりと対流を起こしています。対流で地球の表面に近づいてきたマントルは冷えて堅い岩盤になります。これがプレートです。牛乳を温めると、表面に薄い膜ができますよね。このイメージなのです。

 マントル対流に乗る形で、プレートはゆっくり移動します。地球の表面には、こうしたプレートが約10枚存在し、日本列島の地下で4枚のプレートがぶつかり合っています。

 このうち太平洋プレートは海底に存在する海のプレートなので、たっぷり海水を含んで重く、北米プレートのような軽い陸のプレートとぶつかると、下に潜り込む形で沈み込んでいきます。

 このとき陸のプレートの先端部分は海のプレートによって地下に引きずり込まれていきますが、やがて元に戻ろうとして跳ね上がります。このとき巨大地震が発生します。これが「プレート境界型地震」と呼ばれるものです。

 2つ目の地震は「活断層」によるものです。プレートがぶつかって潜り込むとき、内陸には強い圧力がかかります。これにより内陸で地盤が割れる現象が起き、断層が生まれ、その衝撃で起きる地震なので「活断層地震」といいます。この断層は、いったん発生すると、何百年かに一回のペースで動くので活断層といいます。人間でいうと、古い傷口(きずぐち)が開くようなものですね。

 3つ目は、地下で火山のマグマが動き、地盤が動くことで起こる「火山性地震」です。

 ところが、今回の能登地方での地震は、これとはタイプが異なります。専門家たちの見解を総合すると、以下のようなことが考えられているのです。

上昇した水が原因?

 日本列島の地下に潜り込んで(もぐりこんで)いる太平洋プレートは、たっぷり海水を含んでいますが、深さ約200キロまで沈むと、高熱のマントルによって熱せられ、高温になった海水は浮力がついてプレートからしみ出し、上昇を始めます。

 上昇し、地上(ちじょう)に近づくと、水にかかる圧力が下がりますから、激しく沸騰、膨張して、勢いよく岩盤を押し上げたり、あるいは断層の隙間に入り込んで、断層を動かしたりします。これが地震を引き起こしているものと考えられています。水が地震を引き起こしているというのですから、水の勢いは大したものですね。

 そして今回は、気象庁が初めて「長周期地震動(ちょうしゅうきじしんどう)」に関する情報を発表しました。初耳だった人も多く、不安になったようです。そこで、これも解説してしまいましょう。

 長周期地震動に関する情報は、気象庁が今年の2月から発表するようになったものです。地震には周期の短いものと長いものがあります。周期とは、地震の揺れが一往復(いちおうふく)する時間のことです。周期が短いと、ガタガタと揺れて終わりですが、周期の長い地震は、ユラーリ、ユラーリと長く続きます。その結果、最初の揺れで震度が出ても、長周期だと体感としては発表された震度より大きい地震だと感じてしまいます。

 また、高いビルほど揺れが長く続くのです。高層ビルにいる人は、船酔いのようになってしまいます。

 東日本大震災では、震源から遠く離れた東京都心の高層ビルが大きく揺れ、まるで隣のビル同士が衝突するかのような恐怖を感じた人もいました。これぞ長周期地震です。

 今年の2月から発表されることになった長周期地震動は4段階に分類され、今回は「階級3」でした。これが4になると、気象庁の解説では、「立っていることができず、這わない(はわない)と動くことができない。揺れに翻弄(ほんろう)される」と表現されています。今回の3は、「立っていることが困難になる」レベルだそうです。

 それにしても、なぜ気象庁はこれまでの震度だけでなく、新しいことを始めたのか。気象庁のウェブサイトによると、次のような理由からなんだそうです。

「長周期地震動に関する観測情報は、施設管理者や低層階の防災センター等が高層階における被害の発生可能性等を認識し、防災対応を行うための判断支援に利用していただくことを想定しています。また、高層階の住民の方々が、震度とは異なる揺れであったことを認識していただくことを想定しています」

 つまり高層ビルの低層に防災センターがある場合、そこでは大した揺れでなくても、「高層階は大きく揺れている可能性があるな。被害が出ていないか確認しなければ」と考えて早期の対策をとってくださいと呼びかけているのです。

 今後は、「震度は〇でした」という発表ばかりでなく、長周期地震動に関する情報も出るかどうか注意しなければならないのですね。


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