夜ふけのなわとび 第1795回 2023/05/26

揺れている

 綺麗な少年を持つお母さんに、慣用句ともいえる誉め言葉がある。

「将来、ジャニーズに入れるんじゃない?」

 すると、

「まあ、そんな」

 とたいていの親は相好を崩す。

 が、中には4分の1ぐらいの割合で、こう言うお母さん、お父さんがいる。

「絶対にそんなことしない。ジャニーさんに何かされるから」

 そのくらい、一般人にとってもそのことは知れ渡っていたのである。

 昔、『光GENJIへ』という暴露本が出た。「週刊文春」も何度も訴えてきた。裁判もあった。しかしどのマスコミも知らん顔。

 イギリスのテレビ局で特集を組んで、ようやく一部の新聞が動き出しても、それでもやはりどこも無視をきめ込んでいた。

 テレビ局の責任は重たい。が、こちらはジャニーズのタレントがいなくては、夜も日も明けないのだろう。仕方ないとは思わないが、しがらみに屈したということはまあ想像出来る。あまりつき合いがないので詳しいことはわからないが。

 情けないのが出版業界だ。こちらは私のホームグラウンドだからいろいろ言わせてもらうが、「週刊朝日」や「AERA」の腰のひけ方ときたら。今まで全く報道していないのだ(次週号でやるらしいが)。

「少年への性的虐待」なんて「AERA」の最もとり組まなくてはならない分野であろう。どうして出来ないのか。ジャニーズのタレントを毎週のように掲載しているからだ。

 雑誌が売れなくなって久しい。「AERA」の表紙は、ある時まで文化人であった。作家や建築家、画家やアーティスト、といった人たち。芸能人が出る時は、重厚なベテランが多かったと記憶している。

 それが雑誌がジリ貧になってから、ジャニーズ一辺倒になった。彼らが出ると、ファンが買う。数千冊ぐらい売上が増えるらしい。延命のためにこういうことをしているうちに、ジャーナリズムとしての何かがすり減ってしまった。

 私はずっと連載していたので、はっきりと「週刊朝日」の編集者に言ったことがある。

「アイドルをカッコよく見せるんだったら、『週刊朝日』は絶対にマガジンハウスにかなわないよ。それなのにどうして同じことをするのかな。ジャニーズのスキャンダルが出ても、何も出来ないっていうことだよ」

 すると相手はつらそうに言った。

「それはわかっていますが、うちも売れないと困るんです」

 今回、朝日新聞出版は、「週刊朝日」ではなく「AERA」の方を選んだ。歴史のある週刊誌を休刊にして、どうして「AERA」を残したのかというと、こちらの方が広告が多いかららしい。悲しいが仕方ない。

 だったら「AERA」、よろしくお願いしますよ。

 高学歴の意識高い女性が読者層であるが、彼女たちだってジャニーズが大好きなはずである。彼女たちに向けて、きちんと今度のことを説明してほしいものだ。

 そして知らん顔していた「週刊朝日」や「AERA」よりも、もっと罪が重いのが「女性セブン」だ。

 1ヶ月ほど前の号で、

「勇気ある告発者の正体」

 という記事を載せたのだ。勇気を出してジャニーさんからの性被害を訴えた男性について、スキャンダルめいたことを書いた、金銭トラブルがあると。そんなこと、過去の性被害と何の関係もないではないかと、私は怒りに震えたのである。私は女性週刊誌を愛する者であるが、いったい「女性セブン」はどうしたのか。こうしたことでジャニーズに忠誠を表したのか。

真摯(しんし)な検証を

  ところで私、晩年に近いジャニーさんの面識を得て、何かとよくしていただいた。コンサートに招待してもらい、稽古場(けいこば)を見せてもらったことも。

 少年たちにあれこれ指導するジャニーさんは、厳しく的確で、シロウトの私にもすごいプロデューサーだということがわかった。

 お話ししていても紳士的で知的な方であった。であるからして、

「はて、あの噂は本当なんだろうか」

 と考えたものだ。

「確かに美少年はお好きかもしれないけど、それはプロデューサーとしてであって、ああした噂は都市伝説なのかも」

 そして数年後。私はジャニーさんの「お別れの会」に招かれた。それは目もくらむような光景であった。マッチがお別れの言葉を言い、最後にジャニーズのタレントさんたちがいっせいに登場した。キムタクも嵐も、関ジャニも、V6も、KinKi Kidsも、とにかくスターがずらり並んだのだ。

 みんなジャニーさんが育てた人たちだ。このことによって、私たち出席者は、彼が日本芸能史にあたえた功績がいかに素晴らしいものだったか再認識することになった。

 あの時、一瞬であるが、私の心の中に、

「これだけのことをしたんだから、多少のことは目をつぶっても……」

 という言葉がうかんだのは事実なのだ。考えてみれば私も手を貸していたのかもしれない。手に入れにくいチケットをいただいて喜んでいた私は……。

 今回、きちんと謝罪した現社長、ジュリーさんは立派だったと思う。強烈な2人のカリスマ、ジャニーさんとメリーさんの陰にいて、彼女が真実を知るのは困難だったろう。とにかく一歩を踏み出したのだ。これからはマスコミも、そして私も、まじめにこのことについて検証していかなくてはと思う……とここまで書いていたら、市川猿之助さんのニュースが飛び込んできた。まだ何もわかっていないが、彼にはセクハラ疑惑の記事が出ていた。今、セクハラで日本中が揺れている。みんな一緒に揺れて考えて議論して、ピタッとあるべき場所で止まりたいものだ。