新聞不信 「週刊文春」編集部 2023/06/22

解散を巡る“自己満報道(じこまん)”

 国立研究開発法人「産業技術総合研究所」の研究成果(せいか))を中国企業に漏洩(ろうえい、ろうせつ)していた不正競争防止法違反(ふせいきょうそうぼうしほういはん)の疑い(うたがい)で、同所に所属する中国籍(ちゅうごくせき)の研究者が警視庁公安部に逮捕された。多額の公費が投じられる国の機関から中国への情報流出は極めて異例。逮捕された研究員は中国軍とつながりが深いとされる「国防七校(こくぼうななこう)」の一つである北京理工大学で教鞭(きょうべん)を取っていた時期もあるという。

 経済安全保障の議論が喧しい(やかましい)。中でも国の先端技術をどう守るかというのは課題の一つだ。中国については、国民や組織は政府の情報活動に協力する義務があると定める「国家情報法」の存在も、しばしば話題にのぼる。そのさなかに経済産業省所管で日本最大級の公的機関が持つ先端技術が、習近平国家主席と握手を交わしたこともあるという研究者によって流出したのだから一大事のはずだ。

 このニュースを朝日と毎日、日経は6月16日付朝刊の社会面で申し訳程度に報じた。これだけ地政学的リスクが日々高まっている中、よく目にする窃盗事件などの報道と同等の扱いで良いのか。

 容疑者は研究データを中国企業にメール送信したとのことだが、なぜそんなことができたのか。産総研のセキュリティレベルはどの程度なのか。経済安全保障の今後の議論にどんな影響があるのか。知りたいことは山ほどあるが答えてくれる記事がない。

 代わりに同日付(同にちづけ)朝刊で各紙が手厚く報道したのは岸田首相が今国会中の衆院解散を見送ると表明したことだった。5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕(へいまく)した直後から、新聞もテレビも多くの記者を張り付けて(はりつけて)解散を巡る政局を延々と報じた。解散風が強まると「課題山積(かだいやまづみ)の中でそんなことをやっている場合か」、弱まると「後ずさり」と報じる。首相が当面の結論を出したので、16日付朝刊では蓄積(ちくせき)してきた情報と永田町(ながたまち)の住人たちのもっともらしい台詞をつなぎ合わせた記事が溢れた。しかし「ああでもない、こうでもない」の政局報道をそれほど読者が喜ぶと思っているのだろうか。

 読者が知りたいこと、読者に伝えるべきことではなく、自分たちが知っていることを吐き出して悦に入る。メディアの“自己満報道”が目に余って仕方がない。


「産総研」の中国籍研究者逮捕に 中国外務省「重大な懸念」 6/19(月) 19:16配信

テレビ朝日系(ANN) "「産総研」の中国籍研究者逮捕に 中国外務省「重大な懸念」"

国立の研究機関に勤務する中国籍の研究者が先端技術を中国企業に漏洩(ろうえい)した疑いで警視庁に逮捕されたことについて、中国政府は「重大な懸念」を示しました。

 国立の研究機関「産業技術総合研究所」の主任研究員で中国籍の権恒道容疑者は2018年に特殊なガスに関する研究内容を中国企業に漏らした不正競争防止法違反の疑いで警視庁に逮捕されました。

 この件について、中国外務省は今月19日の会見で「高く注目している」と述べたうえで、「外交ルートを通じて重大な懸念を日本側に表明した」と明らかにしました。

 さらに、日本側に対して「中国人の合法な権益を守り、両国の科学交流と協力の良好な環境を作ってほしい」と要求しました。


申し訳程度の 〖名ばかりの〗【金額が】nominal 【行為・事情が】token 〖ごく小さい〗very small 〖ほんの少しの〗only a little. ▸ 申し訳程度の料金 a nominal fee. ▸ 申し訳程度の昇給 a token [(わずかの) a slight] increase in salary.