新聞不信 「週刊文春」編集部 2023/06/15
常套句だらけの国会記事
人一倍、政治記事は読んできたつもりである。それでも真意不明で途方に暮れる時がままある。特に常套句(じょうとうく)が乱発(らんはつ)される国会記事が困る。
時事通信(時事つうしん)が6月5日に配信した「ジャニーズ問題、法整備見えず 与野党そろわぬ足並み」との記事がそうだ。
ジャニーズ事務所の故ジャニー喜多川(きたがわ)前社長による性加害問題を巡り「立憲民主党は児童虐待防止法の改正を呼び掛けるが、自民、公明両党は慎重(しんちょう)姿勢を崩していない」とし、「今国会中の法整備は見通せない」と書く。
足並み、慎重姿勢、見通せない、と国会記事用語が目白押し(めじろおし)だが、結局、法整備が進まない原因や責任の所在はさっぱりわからない。
読み進むと、困惑はさらに増す。「野党主導の議論には乗りづらい」と指摘する自民幹部の声がある。何だ、損得勘定で与党が尻込みした結果かと思いきや、別個の話が続く。公明党が関係省庁連絡会議の設立を要望し、石井啓一幹事長が「現行法の下で対応が可能だ」と語ったとある。
これでは、与党と立民の論のどちらに分があるか、皆目(かいもく)見当(けんとう)がつかない。
凄惨な性被害の実態が次々暴かれるなか、法改正と現行法の厳格適用のどちらが実効性があるか。論議の足並みもそろわぬ状況で、国会は実態解明を後押しできるか。追うべき論点は数多いのに、ただ反応を書き並べるばかり。共産党と日本維新の会の対応を例示して野党各党にも「温度差がある」と、これまた常套句の出番である。
もっとも、とっちらかった国会の現実を反映したものかもしれず、記事を書いた通信社を責めるのはお門違いだったか。5月の段階で「ジャニーズ謝罪 これで幕引き(まくひき)許されぬ」(朝日)、「ジャニーズの性加害問題 社長は何も答えていない」(毎日)など社説で指弾した新聞が、国会記事で追撃の姿勢を欠くのが一番の不思議である。
少なくとも入管法改正案やLGBT法案、衆院解散の予想と比べ、質量共に記事の出方(でかた)は明らかに劣る。問題の深刻さが違う出方。
週刊誌でジャニーズを多用した新聞社もある。テレビを含め被害者の声に向き合わなかった責任も問われる。その鈍感さは、国会記事でもなお続いている。