新聞不信 「週刊文春」編集部]」 2023/06/08
余りに怠慢な経営統合報道
日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが経営統合することで基本合意した。5月30日に開かれた記者会見には、それぞれの親会社であるトヨタ自動車の佐藤恒治(さとう こうじ)社長と独ダイムラートラックのCEO(最高経営責任者)も出席。統合で日野自を連結対象から外すトヨタの佐藤社長は「我々が日野を支えることの限界もある」と語った。
2022年3月、日野自で排ガスデータの改ざんが発覚、トラックやバスの国内出荷が停止となった。23年3月期は1176億円の最終赤字。赤字は3期連続で、赤字幅は過去最大となった。佐藤社長の「限界がある」という発言は、「トヨタはもう面倒を見きれない」という意味だろうが、この2、3年の日野自をみると無理もないと思う。
しかし01年に日野自がトヨタの子会社になって以来、トヨタは4代続けて社長を送り込んでいる。05年11月、元副社長の技監が自動車取得税の軽減対象となる大型エンジンの開発指示を出したが、目標未達が続いた。それでも技監(ぎかん)が達成を強く求めたことが不正につながったといわれるが、この元技監はトヨタ出身者。「面倒を見きれない」という社内風土を作ったのはトヨタの可能性がある。
しかし三菱ふそうとの統合を報じた新聞記事で、こうした経緯に触れたものはない。「トヨタ『日野支える限界ある』」(朝日)、「日野自『親離れ』求められ」(毎日)。いずれも不正が発覚した日野自が諸悪の根源で、その結果、トヨタから三行半を突きつけられたというニュアンスなのである。
日野自は21年にトヨタ、いすゞ(isuzu)自動車と商用車を一緒に開発する共同出資会社、コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズを設立した。いすゞとはバス事業も統合している。こうした関係を踏まえると、生き残りをかけた再編相手はいすゞしかない。それが業界関係者の見立てだったため、再編相手が三菱ふそうだったのはかなりのサプライズだ。しかし、なぜいすゞではなかったのかを解説する記事もない。
紙面を大きく割いているが中身は会見で出た発言のつなぎ合わせ。企業や、そこで働く人の思惑や息づかいが伝わらない記事しか書けないのなら、いっそ執筆を生成AIに委ねた方が良い。
- 2022年08月29日 06:00
親会社のトヨタが“被害者”ぶっても、監督責任から逃れられないワケ
嘘を塗り重ねた末、国内販売ほとんどの車種で不正
「トヨタ自動車は被害者です」。トヨタの豊田章男社長は8月5日、親しい記者とのオンライン懇談会でこう切り出したという。
この豊田氏の発言は、トラック大手、日野自動車におけるエンジン開発の不正に関してのもの。軽自動車からトラックまでの商品を抱えるフルラインメーカーのトヨタにとって、日野は商用車部門を担う重要子会社。トヨタの小型トラック「ダイナ」もOEM供給している。
トヨタは2001年に日野を子会社化して以来、4代続けて社長を送り込み、現社長の小木曽聡氏もかつて「プリウス」を担当したトヨタのエース技術者の1人。社長以外にもトヨタから多くの幹部が送り込まれている。
日野のエンジン開発不正の内容が、言い訳ができないほどあまりにも悪質であり、トヨタが得意とする「広告費でメディアの口を封じる」こともできないため、「豊田氏はまるで他人事のようなコメントをして逃げている」と担当記者らは見ている。
嘘に嘘を塗り重ねた日野の不正
まず、その悪質な日野の不正とは一体どんなものなのか説明しよう。
日野は22年3月、国土交通省に届ける燃費や排ガスのエンジン性能試験に不正があったとして、対象のエンジン4機種を搭載した累計約11万7000台のうち一部のリコールを発表した。これを受けて国交省はこの4機種の型式認証を取り消した。
さらに8月2日に第三者委員会が発表した社内調査によると、対象エンジンが26機種、搭載車両も56万7000台にまで拡大。3月の発表時点では不正開始時期が16年秋以降としていたのが、少なくとも03年以前から行われていたことが分かった。