宇垣総裁のマンガ党宣言! 第112回 2023/12/22
情熱溢れるデザイナーの真の顔は……
才能があれば、情熱があれば、売れる。世界がそんな純粋で分かりやすいものならどんなによかったか。どのような世界にだってそれだけではない力学(りきがく)があることを私はもう知ってしまっているけれど、まさかファッション業界もそうだったなんて。『ファッション!!』を読めば、純粋にその華やかさにうっとりしていた頃にはもう戻れない。私の憧れているあの服も、あのブランドも、きっと茨の道(いばらのみち)を通ってここまでやってきた。
服をこよなく愛するファッションオタクの開は、長年ファッションに関わる色々な仕事をしてきたものの、現在は漫画家の妻・桜子や子どもと共に暮らしていくため、テレビの電飾関係の仕事で生計を立てている。ある日、服づくりに真摯な留学生・ジャンに出会ったことをきっかけに、ファッション業界を熱意ある若者が未来に希望を持てる業界に変えたいと、自分の持つ人脈や時間を使い、ジャンのプロデュースを担うようになる。
スタイリッシュに描かれるファッションショーやモード感満載な雑誌の撮影風景のなんとカッコいいことか。開やランウェイを歩くモデルたちが着ている服やファッション雑誌のようにキメキメのコーディネートで描かれたコミックの表紙をうっとり眺め、これはどこのブランドの服かしら? と想像するのも楽しい。
そんな華やかなファッション業界を舞台にした物語のはずなのに、ずっと漂う不穏で不気味な破滅の予感。その原因はジャンが時折みせる虚ろな表情にあった。純朴で情熱溢れる青年に見えたジャンだが、話が進むにつれその裏側が徐々に明らかになっていく。不義理を重ねながらも口八丁手八丁で次々と周りの人を懐柔していくその様子のおぞましさたるや。ページを通して伝わってくる剥き出しのエゴと厚かましさに嫌悪感を覚え、思わず「開も桜子も逃げて〜!」と声に出してしまいそうになった。
読み進めるうちに違和感を覚えながらも、開の手腕やジャンの人たらし力によってどんどんとブランドは上り詰めていく。成功までの道のりが疾走感に溢れれば溢れるほど、その裏で積み重なっていく借金がちらつき、読んでいてずっと胃が痛い。
ヒューマンホラーであり、お仕事漫画でもある本作。綿密な取材を元に描かれた内情はあまりに生々しく、ファッション業界にあまり明るくない人にも分かりやすくこの業界の不均衡と搾取の構造をあぶりだす。
才能があってもお金がなくては成功など夢のまた夢。ショーをするにも服を作るにもいちいち莫大な金がかかり、コネがなくては通れない道があり、何も知らない若く純粋な才能には悪い大人たちが群がってくる。あまりに世知辛くいたたまれない。一方で、やりがいを搾取され、自分でも気づかぬうちに多くを犠牲にせざるを得ないという現状は決してファッション業界に限ったものではないだろう。
現行の連載はいったん終わり、媒体を変えてこの先も物語は続く。作者曰く「本当に描きたいことはこの先に」あるとのこと。幸か不幸か、互いの欠点を補い合えてしまった開とジャン。この先2人にはどんな未来が待っているのだろう。破滅の予感を感じながらも、この業界の歪な構造をひっくり返してほしいとどこか期待している自分もいて。怖いけど、目をそらすことなどできない。