ツチヤの口車 第1320回 土屋 賢二 2023/12/09

亀による政治

 亀甲羅(きっこうら)政治を提唱するコラ・亀田(かめだ)氏に聞いた。

――どんなご主張なんでしょうか。

「政治は選択の連続だ。しかも昼食をそばにするかうどんにするかといった選択とは違う。国民の運命を握る選択ばかりだ。プーチンのような選択をしたら何万人もの人命(じんめい)が失われる。どうすれば正しい選択を下せるだろうか?」

――あらゆるデータを集めて統計処理をして選ぶのがいいと思います。

「だが政治的選択は自然現象ではない。わたしが次の瞬間、あんたを殴るという選択をしても不思議ではない。それを過去の事例から予測できるはずがない」

――そ、そんな危険性があるんですか。申し上げておきますが、わたしは空手の有段者です。

「それなら言うが、わたしも初段(しょだん)だ。そろばんだが。しかも盛って(さかって)いる。わたしはふだん温和だが、1分後に何をするかはまったくの白紙だ。それが自由ということだ」

――たしかに科学的に予測できたら自由ということにはなりません。

「だからチャーチルも言っている。『政治家に必要な能力は、明日、来週、来年何が起こるかを予言する能力である。そして、後になってそうならなかった理由を説明する能力である』」

――予言が外れると前提しているんですね。

「その通り。科学が成り立たない予測不可能な中、徒手空拳(としゅくうけん)、完全な白紙に墨痕淋漓(ぼっこんりんり)と大書(おおかき)しているのだ」

――大書とは言えませんが、細々とでも選択し続けているわけですね。

「そうだ。若者は自分と同じぐらい愚かな友人や占い師の言う通りに行動する一方、経験を積んだ年長者(ねんちょうしゃ)の意見を聞かない。若いとき年長者の意見をバカにしていた者が歳をとると、若者に説教するようになる。わたしのように」

――うちの2歳の娘も言うことを聞きません。年老いた祖父母も犬もわたしの言うことを聞きません。

「政治はそんな勝手な人間を束ねて(たばれて)未来を決断しなきゃいけないから難しい。問題は結果だ。二、三千年の歴史で何か改善したか? 戦争はなくなったか? 最善の選択ができるようになったか? そもそも何が最善か分かったか? 教育は成功したか? 経済は制御できるようになったか? 何ひとつ改善していない。原因は何だと思う?」

――人間がまだ賢くなっていないからです。

「賢くなるのを待っていたら何万年もかかる。それ以前に、賢い選択とはどんな選択なのか不明だ。第一志望の会社に就職しないのが賢い選択かどうかは、だれにも決められないし、決める方法がない。人類の歴史は失敗の歴史だ。もちろん、一大強国が出現して侵略行為を厳しく制裁すれば戦争は激減するし、燃料や食料が安価に入手できるようになれば多くの経済的問題は解決する。だが現在、そんなものは夢物語だ」

――ではどうすれば?

「これまで何千年もの間、改善しなかったものが急に改善する可能性は低い。現在はほぼ運まかせで選択を続けている。それなら適切な政治体制ができるまで、占いを採用してはどうかと主張したい。太古にならって亀の甲羅(こうら)で占う。色々な利益団体の代表で決める政治より、亀の甲羅で決める方が公平だ。何よりも、人間の力はタカが知れているという認識を定着させる効果がある」

――でも「占い政治」となると拒否感が……。

「わたしの占いでもそう出ている。反対するのは不要になる議員連中だろう。それに亀の保護団体かな」

――あっ、いま十円玉で占った(うらなった)ところ、取材費は払わなくていいと出ました。ありがとうございました。

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