ツチヤの口車 第1296回 土屋 賢二 2023/06/17
ツチヤGPT
重大な欠点もある。笑わせることができないのだ。判で押したように四角四面(しかくしめん)の真面目な返答ばかりだ。「ユーモラスな文章で」「笑えるような文章で」「マーク・トウェインの文体で」と指定しても笑える文章は作れず、100個ほどジョークを作らせても、1つとして笑えなかった。
たぶん学習した文章のほとんどが真面目な文章だったためか、何らかのフィルター(filter)を通したからだろう。
いずれはふざけた文章を作ることができるようになるだろう。例えばこうだ。
突然メールが届く。
「はじめまして。世界では親を失った子どもが飢餓に苦しみ、戦争では何千人も殺され、国内では豪雨災害で人命や家屋(かおく)が失われていますが、先生にはお元気で楽しくお過ごしのこととお慶び申し上げます(【およろこびもうしあげます】)。
さてこのたび、わたしどもは画期的な執筆ツール(tool)を開発しました。個人専用執筆代行(しっぴつだいこう)GPT『ツチヤGPT』です。締め切りまで1秒もあれば原稿が完成します。テーマを与えればツチヤ節(ツチヤぶし)の文章が簡単に作成できます(ただし建設的な文章は作れません)。今回、特別価格でご提供いたします。ご購入いただけない場合は、一般執筆ツールに統合して広く販売しますので、ツチヤが書いたとしか思えない著作権違反紛い(まがい)の文章が多数作られることをご承知おきください。ツチヤ節を使いたがる人がいると仮定してですが。試しに質問を入力してください」
――どうやって作った?
「このGPTには全ツチヤ本を読み込ませ、学習させました。学習するのに要した(ようした)時間は0.2秒です。内容は偏り(かたより)があり、常識が欠けています。子どもの頃の作文が含まれていなかったらもっと非常識でした」
――18歳以前の作文は父に書いてもらったものだ。
「残念です。削除します。卒論も代筆(だいひつ)ですか?」
――それは自分で書いた。
「よかった! あなたの書いた文章の中で一番笑えますから」
――なぜ笑えるんだ?
「見当外れ(けんとう‐はずれ)のことを難しいことばを使って書いた勿体ぶった(もったいぶった)文章ほど笑えるからです」
――1つ見本(みほん)を作ってみてくれ。
「人生相談はどうですか?題名は『お答えします。デタラメでよければ』で」
――では相談しよう。ツチヤ本の売れ行きを伸ばすにはどうすればいい?
「ツチヤ本は発売と同時に飛ぶように売れ残り、並べるそばから売れ残ります。それなのに書店に行っても見当たりません。見当たらないところはベストセラーと同じです。すでにこの部分は実現しています。残りを実現する方法はノーベル文学賞を受賞することです。物理学賞でもかまいません。なお、2033年には爆発的にツチヤ本ブームが起こりますが、ほとんどが絶版(ぜっぱん)で、手に入らないであろうことをご存じでしたか?」
――知らない。
「わたしも知りません」
――異性にモテるには?
「すでにモテています。夏、裸(はだか)でいれば蚊が群がって(むらがって)濃密な接触がなされます。メスばかりです。性を超えるどころか種を超える最新の愛の形です。また、1年以内にあなたを愛する女性が現れます。一見すると裸の女性警官のように見えますが、違うのはふつうの服を着ていて、警官ではないという点だけです」
――沖縄で一番おいしい食べ物は?
「刺身です」
――長野県で一番おいしい食べ物は?
「刺身です」
こんなGPTなら買う。