THIS WEEK「国際」 牧野 愛博 (まきの よしひろ) 2023/09/14

親書を雑に扱い、席は1段下 金正恩が中国を冷遇し始めた

 ひどい冷遇(れいぐう)だった。中国の劉国中副首相は9月8日夜、平壌(ピョンヤン)で北朝鮮建国75周年を祝う軍事パレードに参加した。中国の賓客(ひんきゃく)は過去、北朝鮮最高指導者の横に立つのが慣例だった。しかし今回、金正恩総書記は一番奥まった(【おくまって】 (exp) secluded;)空調の効いた席に娘と一緒に座り、劉氏は前方の1段下がった場所に他の北朝鮮高官と共に立った。日本政府関係者は「異例の軽い扱いだったという情報を得ている」と語る。

 先立つ(さきだつ)7月27日の朝鮮戦争休戦70周年のパレードでも代表団は冷遇(れいぐう)された。金正恩氏が話しかけるのは、ロシアのショイグ国防相(こくぼうしょう)ばかり。中国代表団の李鴻忠政治局員とは、ほとんど言葉を交わさなかった。

 李氏はパレード直前、ショイグ氏もいたレセプション会場で習近平国家主席の親書を正恩氏に手渡した。別の政府関係者は「普通、あんな場所では渡さない。あの時点で、個別に正恩氏に会える約束を取れていなかったのだろう」と語る。

 なぜ、中朝(ちゅうちょう)の間で隙間風(すきまかぜ)が吹いているのか。中朝関係筋は「中国は、ロシアと北朝鮮の軍事的な接近を快く思っていない」と語る。中国は米国に対抗するため、ロシアと北朝鮮を支持しているが、内心は「ウクライナに攻め込んだり、核やミサイルで挑発を続けたりする国と一緒にしてほしくない」と考えているという。

それでも中国から食糧援助を勝ち取った

 特に中国が神経をとがらせているのが、核開発を巡るロシアと北朝鮮の協力復活だ。ロシアは旧ソ連時代、北朝鮮に研究用原子炉(げんしろ)を提供するなどしたが、北朝鮮が1993年に核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言したことに激怒した。以後、ロシアは北朝鮮への軍事協力を停止した。

 ところが、最近、北朝鮮が7月12日に発射した新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星18」がロシアのICBM「SS27(ロシア名・トーポリM)」と同一だという指摘が専門家から出ている。金正恩氏はロシアとの首脳会談でプーチン大統領に核開発協力を求めるだろう。

 ロシアにしてみれば、自ら「核による脅迫」を行うほど追い詰められている状況だ。北朝鮮に協力することもありうる。

 だが、中国にしてみれば、不動産不況などで内政が深刻な状態にあるなか、米国を刺激し、日韓台(にっかんだい)などが核武装に動く「核ドミノ」を誘発しかねない。ロ朝両国と距離を置こうと軽量級の代表団を送ったところ、北朝鮮から塩対応の反撃を食らったというわけだ。北朝鮮は大国を両天秤(りょうてんびん)にかけて利益を得る「大国間外交」の巧者(こうしゃ)でもある。

 中朝ロも一枚岩(いちまいいわ)というにはほど遠いのが現実のようだ。