THIS WEEK「国際」 近藤 奈香 2023/09/07

議会襲撃で火の車のトランプ 弁護士費用は半年で58億円也(なり)

 米連邦議会襲撃事件の主犯格への判決が次々と言い渡されている。事件は、2021年1月、ドナルド・トランプ前大統領の敗北を認めようとしない群衆2000人以上が米議会を襲撃するという未曾有(みぞう)のものだった。

 逮捕者は1100人以上でたが、100人以上が襲撃にかかわった極右団体(きょくうだんたい)「プラウド・ボーイズ(Proud Voice)」の幹部メンバーには、8月末から次々と重い判決が下った。

 8月31日に「私はテロリストではない」と主張したジョー・ビッグスが禁錮17年。9月1日に判決が言い渡されたのは、襲撃時に目立っていたメンバーのイーサン・ノーディーンとドミニク・ペゾーラ。議会への行進を先導したノーディーンは、禁錮18年の判決が下った。彼は団体のリーダー格で、資金集めに奔走し、軍用品などを集めていた。

 一方の、ペゾーラは、議事堂の窓ガラスを割って真っ先に建物に侵入した男。

 本人(ほんにん)は泣きながら裁判官に減刑を要求した。しかし、禁錮10年を言い渡した判事がいなくなると、こぶしを掲げ(かかげ)「トランプが勝った」と叫び、態度を一変させるなど反省(はんせい)の色はなかった。

“実行犯”に厳しい判決が続く中、“指示役”にも注目が集まる。議会襲撃直前に演説し、襲撃を煽動したとされるトランプ前大統領である。トランプは、演説は問題なく、襲撃の指示をしていないと関与を否定している。

 トランプの初公判は首都ワシントンの連邦地裁で、来年3月4日に行われると決まった。同日は共和党の大統領候補者指名争いの天王山「スーパーチューズデー」の前日で、トランプは「バイデン政権はもはや政治的動機を隠そうともしない」と主張する。

 仮に有罪となれば最高で禁錮20年の刑に処される可能性もあるこの裁判だが、最も得をしているのは、トランプ弁護団だろう。

 トランプは議会襲撃以外でも、機密文書の持ち出し、選挙結果の覆しを指示したなど4つの刑事訴訟に加え多数の民事訴訟も抱える。

 米CNNによれば、トランプの政治活動団体は、今年上半期だけで弁護団に4000万ドル(約58億円)を支出している。これは24年大統領選挙のために彼が集めた資金の7割になるとされる。

 巨額の訴訟費用を抱え火の車のトランプは、支持者に寄付をくり返し呼びかけている。今年8月には、「3週間ほどで約29億円を集めた」とトランプ陣営は発表した。1日、6億円を集めた日もあったという。

 裁判が終わるか、弁護士費用が枯渇(こかつ)するか。トランプの自転車操業(じてんしゃ そうぎょう)ぶりから目が離せない。