|上沼恵美子の「人生“笑”談(じんせい しょうだん)」白黒つけましょ 2023/12/20

第1回 芸人になりたい中2の息子

 週刊文春をお読みの皆さま、はじめまして。上沼恵美子(かみぬま えみこ)と申します。

 今回からこちらで人生相談のコーナーを始めさせていただくことになりました。

「はじめまして」と申しましたが、実は私、34年前にもこちらで「上沼恵美子のおしゃべり相談室」という連載をやらせていただいておりました。当時はまだ子どもも小さくて、テレビの仕事終わって家に帰って家事も育児もフルでやってからお悩みへの回答を自分で書いてましたね。しんどかったです(笑)。

 この頃、私は自分の引き際(ひきぎわ、引きしりぞく時)というものを考えるようになりまして。そんな矢先にこの人生相談のお話をいただいて、自分としては最後の仕事のつもりでやらせていただこうとお引き受け致しました。タイトルに「人生“笑”談」とあるとおり、くすっと笑えるものにしたいですね。

 それともうひとつ。「人生相談」でありがちな「よく皆さんで話しあってみてください」みたいな回答だけはしないつもりです。お引き受けしたからには、どんなご相談でも私なりに白黒はっきりつけてお答えします。はっきり言いすぎてご批判もいただくかもわかりませんが、68年、こうやって生きてきましたんで、読者の皆さまにはどうかその辺は諦めていただき、笑ってお付き合いいただけると幸いです。

Q  中2の息子が「お笑い芸人になりたい」と言い出しました。それどころか「高校はいかずに養成所に入りたい。この世界は早いほうがいい」とどこかで聞きかじって(a superficial knowledge of it)きたようなことを言ってます。息子にお笑いのセンスを感じたことはありませんが、「最近は“陰キャ”の芸人のほうが売れる」と妙に自信ありげです。「やらない後悔より、やった後悔のほうがいい」とは言いますが、せめて高校ぐらいは出てくれよ、というのが本音です。たくさんの芸人さんを見てこられた上沼さんのご意見をお聞かせください。(43歳・男 和歌山県)

 私ね、この息子さんはエラいと思うんです。この頃は自分で回答を出さない人間が多くなっています。何かというとスマホで検索、ネット情報で賢い気になっている。

 だから例えば若い人を蕎麦屋に連れて行って「何食べたい?」と聞いても、「あ〜、う〜」ばかりで自分が何を食べたいのかも分からない。情報ばっかり集めた結果、30過ぎても結婚もしない、家も買わない、車にも乗らない、犬も飼わない……現実的になりすぎて、夢がない若者ばっかりです。

 そんな中で自分が生きたい人生を中学2年生にして決めている子がいるのは嬉しいですね。笑顔になりました。褒めてあげてください。

 ……で、これから嫌なこと言いますよ(笑)。まず、高校には行ってください。高校に通いながらお笑いをやるのは難しいことじゃない。現に私はやっておりましたので。

 私が「海原千里・万里(うなばらせんり・まり)」でデビューしたのが16歳で、当時は3時限目まで授業を受けてから、梅田にあった寄席小屋に出ていたんです。制服のまま楽屋に入っていったら、みんな「えっ」と驚く感じで。

授業時間帯.png

 はい、(山口)百恵((やまぐち ももえ)ちゃんと同じですね。いやまあ当時は本当にアイドルみたいな感じだったんですよ。

 それで私の場合、途中で高校をやめちゃうんですね。なぜかというとものすごい売れたからです。18歳になるころにはレギュラーが8本ぐらいあって、どう頑張っても高校に通えなくなったんです。

売れない芸人のタイプ

 高校やめてどうしたかといえば、コンビを組んでいた姉と一緒に当時で家賃25万円くらいする新大阪の高級マンションに住んでました。 それで仕事を終えて深夜姉と2人帰ってきたら、寿司屋に電話して「てっちり」の出前(でまえ)頼んでました。しょっちゅう頼みすぎて、しまいには電話で「海原です」と言った途端に「はい〜、できてます」って。陰で「てっちり姉妹」言われてましたからね。今思うと生意気ですけど、ストレス解消やったんやと思います。

 そこまでなったら、高校やめてもいいんですよ。でもひとつ言っておくと、絶対売れませんから。息子さんにその心配は無用です。

 なんで分かるかと言いますと、彼は「最近は陰キャの方が売れる」と言ってるでしょ。そういう“結論”を自分で持ってる子はあかんのです。「あんたおもろいな」というのはあくまで周囲が言うこと。自分で「俺な、中学出たら吉本行くねん」というタイプは絶対売れない。芸人として売れる人とは、やっぱり周りから「あんた、吉本行け」と本気で言われる人ばかりやと思います。

 今、吉本だけで芸人は6000人、他の事務所も合わせたら1万人をゆうに超えてます。猫も杓子(しゃくし)もとにかく「芸人」と名乗るのが一番ハードルが低いそうです。これは親泣かしてるな、というおもろない芸人もいてます。だからなれる、なれないでいえば、息子さんも芸人になれるとは思います。ただなったとて、という話なんです。「M-1」を見てくださいよ。あの熱量でやれるのは本当に一握りです。

 まずは、こんな時代に自分で将来の夢を見つけた息子さんを褒めてあげてください。高校に通いながら、挑戦させたらいいと思います。下手に反対すると「オヤジの反対でその道に進めなかった」としこりが一生残ってしまいます。売れずに芸人をやめたらどうする? それは息子さんが、考えればいいんです。

 とにかくお父さん、大丈夫です。絶対売れませんから……っていい加減私もしつこいな(笑)。