2023/04/26

統一教会“解散セズ”岸田首相裏切り 質問権行使により3月にも解散請求と見られていたが…

 統一教会との関係断絶を宣言し、史上初となる質問権行使にも踏み切った岸田首相。国民の8割は教団の解散請求を支持していた。それから約半年。統一地方選や補選の裏側で実は今、事態は大きく変わってきている――。

▶︎事務方トップ 直撃180分「見通しは全く立っていない」 ▶︎関連団体幹部「ウチが当落を…」「今も信者」が自民に所属 ▶︎韓鶴子“300億宮殿”内部写真 GW合同結婚式に日本人参加

 案内されたのは、フロアマップにも記載がない“隠された部屋”だった。

 東京・霞が関、中央合同庁舎第七号館にある文化庁。3月に京都の新庁舎での業務が開始し、GW中に職員の大半が現地に移るというだけあって、床は養生シートで保護されている。

 小誌記者は4月17日、21日の2日間にわたり、この庁舎を訪ねた。事務方トップである文化庁次長に面会するためだ。だが、通された次長の自室からは、「次長室」という看板が取り外されている。その理由については「お見込みの通りの事情です」と、多くを語らなかった。聞けば、警察に自宅の警備も依頼しているのだという。

 厳重な警戒のもとで、彼らが行っている業務。それは、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の解散命令請求に向けた調査だ。

 ところが――。

「和歌山はしょうがないけど、結果は良かった。途中、厳しいという話もあったけど。野党はスキャンダル追及ばっかりで、どうせ支持率は低いままだから」

 4月23日に投開票を迎えた衆参補選。4勝1敗で議席を増やした結果に、岸田文雄首相は上機嫌で周囲にそう語ったという。

2023-04-23-衆参補選.png

 「産経新聞とFNNの世論調査では、内閣支持率は50.7%と、8カ月ぶりに5割台を回復しました。ただ、支持の理由については『他によい人がいないから』との回答が半数近くです」(政治部デスク)

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 その岸田首相が支持率回復の陰で、言及しなくなった“重大案件”がある。統一教会問題だ。4月12日、首相と会食をした田野瀬太道(たのせ たいどう、1974年7月4日 - )衆院議員が言う。

「早稲田大出身の議員で集まる会で、総理に声をかけたら来てくれました。総理は『(統一地方選の)後半戦も頑張っていこう』という感じで、選挙の話題が中心。統一教会の件は一言も話題に上りませんでした」

 だが振り返れば、統一教会に最も厳しい姿勢を見せてきた政治家の1人が、他ならぬ岸田首相だった。

「昨年8月31日には記者会見を開き、教団との“断絶”を宣言。さらに10月17日には、宗教法人法に基づく『質問権』を史上初めて行使する考えを表明しました」(官邸関係者)

 所管官庁の文化庁は、宗教法人に法令違反などが確認され、著しく公共の福祉を害すると判断すれば、裁判所に解散命令を請求できる。これを踏まえ、運営の実態について質問するのが、質問権の行使だ。

「従来の法解釈では、解散請求の要件として、刑事罰などが必要とされてきました。ところが批判が高まり、岸田首相はこの法解釈をあえて変更し、10月19日、国会で『民法の不法行為も入り得る』と答弁した。確かに、統一教会は22件の民事裁判で約14億円の損害賠償が認められています。この首相答弁を受け、3月までに教団の解散命令請求に踏み切ると見られてきた。各社の世論調査でも『解散請求すべき』との声は8割前後に上っていました」(同前)

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5回目の回答も封筒1通だけ

 担当の文化庁宗務課は8人から40人規模に増員し、昨年11月22日、統一教会に対し、1回目の質問権を行使。12月9日、教団から段ボール8箱分の回答が届いた。その後、2回目の質問権に対する回答(今年1月6日)は小型段ボール12箱分。だが3回目の回答(2月7日)は小型段ボール2箱分に減り、さらに4回目(3月15日)の回答は封筒1通だったという。結局、年度内の解散請求は実現しなかった。

「4月25日に届いた5回目の回答も、203項目に及ぶ質問に対し、封筒1通に留まりました」(同前)

 では、追い込まれていたはずの統一教会は現在、どんな状況になっているのか。実は、勢力を回復しつつあるという。“あの儀式”もGWに開催予定だ。

 在韓ジャーナリストの柳錫氏が解説する。

「5月7日には、韓国で合同結婚式の開催が予定されています。教団の内部資料には、日本からは600人ほどが渡韓し、参列する旨が記載されている。総裁の韓鶴子((ハン・ハクチャ)氏自ら、信者たちを“祝福”する予定です」

2023-05-合同結婚式の予定.png

 そんな韓国の教団本部が、多くの資金を注ぎ込んでいるのが、総工費300億円超とされる“宮殿”の建設だ。

 教団に詳しいフリーライターの石井謙一郎氏が言う。

「『天苑宮(てんえんぐう)』という教団施設です。5月5日には、この天苑宮の奉献式が予定されている。カトリックの総本山であるサン・ピエトロ大聖堂を模倣(もほう)した建物とされ、内部にはイタリアから輸入した高級大理石を含めた豪華資材が使われているそうです」

 小誌が入手した内部写真を見ると、白亜の円柱がそびえ立ち、天井や床には精緻な装飾が施された豪奢(ごうしゃ)な造りであることが分かる。

天苑宮の内部写真.png

「外装工事はほぼ終了したそうですが、内装工事が終わっていない。さらに数百億円の資金が必要とも言われています」(同前)

 そうした資金の原資は当然、日本も含めた信者からの献金。高額献金に苦しむ被害者がいる一方、韓国本部の贅沢なカネ遣いは留まるところを知らないのだ。

文鮮明・韓鶴子夫妻.png

田中富広.png

 その一方で、岸田首相が昨年秋の時点では強い意欲を示していた統一教会の解散命令請求は、遅々(おそおそ)として進んでいない。

「首相も自身の後援会長が教団関連団体の議長を務めていましたが、統一教会との関係はそう簡単に切れるものではありません。特に地方議員にとって、 まとまった票が見込める教団との関係維持は“死活問題(しかつもんだい)”です」(自民党関係者)

 小誌は今回、教団関連団体の幹部が選挙支援について話す“重要音声”を入手した。昨年8月下旬に録音されたもので、声の主は「世界平和連合」の 中部地区・愛知県連合会事務局長のS氏。音声によれば、地元自民党関係者に対し、次のように述べている。

「今、我々の使命はさ、地方議員をいかに出すかということで。(略)全国的にはもうさ、いわゆる統一教会員が地方議員に出て、何十人かいるわけ」

 さらに「前回の国政(選挙)では(応援した候補者が)みんな勝ったね」と語り、地方選挙での教団の役割をこう誇ってみせた。

「ウチの票ってね、そう多くは無いけど、やっぱり当落をある程度握るところがあるんだよ。(略)市会議員選挙はさ、当選と落ちるのは1票差。 1票から10票の差だから。こちらは名簿を全部押さえるからね」

自民元閣僚が信者候補を支援

 S氏に発言の真意について電話で尋ねたところ、

「それは、記憶違いではないですか。あとは書面でお願いします」(書面での事実確認に対しては、期日までに回答が無かった)

 だが、実際に先般(せんぱん)行われた統一地方選では、S氏が音声で「使命」と語っていた「統一教会からの地方議員輩出」が 実現している。しかも、その中には自民党員も含まれているのだ。

「4月23日、徳島市で7回目の当選を果たした美馬秀夫(みま ひでお)市議です。2015年以降は自民党公認で当選してきましたが、 今回は無所属で出馬。ただ、今も自民党徳島市議団の副会長を務めています」(地元記者)

 投開票前の4月16日、本人に電話で直撃すると、

「今も信者ですよ。向こう(党徳島県連)から公認辞退してほしいと言うこともなかったけれど、私の方から『公認はいいから』と申し上げた。 (統一教会は)それぞれの考えで(応援に)動くと思います。従来と変わらんのじゃないかな」

 これだけではない。自民党の閣僚経験者が信者と見られる候補者を“熱烈支援”したケースもある。

「原田義昭(はらだ よしあき、1944年〈昭和19年〉10月1日 - )元環境相です。福岡県の朝倉市議選に、自身の元秘書の 渡辺毅氏(無所属、(わたなべ たけし、1972年9月10日 - )が出馬。原田氏の支援もあって、当選しました。ですが、渡辺氏は 統一教会の信者とされる人物。地元の教会幹部が周囲に『同志』と紹介したこともありました」(福岡県政関係者)

 原田氏は21年の衆院選で議席を失っている。とはいえ、元閣僚の応援は候補者には心強かったことだろう。渡辺氏に確認すると、

「一時期、原田先生の秘書を務めていたのは事実。ただ統一教会の会員かどうかについては、お答えを差し控えさせていただきます」

 原田氏にも話を聞いた。

――統一教会会員の渡辺氏を応援している。

「一昨年の(原田氏の)選挙で、渡辺君も応援してくれた。そのお礼も含めてやっているだけです」

――自民党は統一教会との訣別を宣言しているが。

「自分の選挙に関わった人が頼みに来れば、やります。私が統一教会と関係を持ったり応援をしたのは事実だけれども、 国会議!員が宗教と関わりを持つのは手当たり次第ですよ。みんな『原田さんだけが本当のことを言っているようだ』と」

 一見“断絶”しているようで、水面下では統一教会と繋がっている自民党。かくして岸田首相は今回の統一地方選でも、 統一教会問題を封印し続けてきた。

 そうした中――。

「解散命令請求は、もう無理みたいだ」

 文科省に設置された「宗教法人審議会」のメンバーの1人は、周囲にそう洩らしたという。質問権行使にあたり、文科省側は 同審議会に諮問しなければならない。彼らは、非公表の質問項目についても細かく説明を受けている立場だ。

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 審議会関係者が明かす。

「教団側の損害賠償額約14億円は他の宗教団体でもあり得る金額で、これだけで解散請求するのは難しい。そこで、 韓国の教団本部へのカネの流れを調査し、外為法(がいためほう)に抵触する例がないかを探しているようです。ただ、 それもなかなか上手くいっていない。政府内では解散請求は相当難しいとの見方が強まっています」

 果たして、解散請求に向けた調査は今、どうなっているのか。文化庁に取材を申し込むと、事務方トップの合田哲雄次長、 担当の宗務課長が応じるという。それが冒頭の場面だ。

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