2024年10月13日 5時00分
ドラえもんの言葉
1979年にアニメの「ドラえもん」が始まったころ、声優たちがアフレコしたスタジオは狭い地下室で換気が悪く、いつも酸欠状態だった。蚊が口に飛び込んで「のび太くう~……、ウッペッペッ」となったことも。全員で大笑いし(おおわらいし)、だれも文句を言わなかったという▼ドラえもん役を26年務めた大山のぶ代(おおやま のぶよ)さんの自伝『ぼく、ドラえもんでした。』からは、初期の手作り感が伝わってくる。大山さんは、未来から来たネコ型ロボットは悪い言葉を使わないと考えた。「あの子の頭に、そんな言葉はインプットされていない」と書いている▼決まり文句の「こんにちは、ぼくドラえもんです」は、そんな信念から生まれた。近所の人にあいさつし、目上の人に敬語を使う。ジャイアンの台本にあった「バッキャロー」も、スタジオで意見を交わして「のび太のくせにィ~」に変わっていった▼人気が出ると、大山さんの自宅を訪ねたり電話をかけてきたりする子どもたちも。「ぼく……」とサービスしたい気持ちを抑え、「ドラえもんはいません。ゴメンナサイ」と伝えたそうだ▼25年目に入るころのインタビューでは、変わらないドラえもんの世界観と現実とのギャップに言及した。「幸せな世界をずっと見せ続けている作品」だから、覚えやすい悪い言葉を使わないのだと話した▼子どもが好きで、未来を案じた大山さんが、90歳で亡くなった。まず浮かぶのは、特徴がある声だ。だが、その声が発する言葉も大切にした人だった。
アフレコ 0,〔 after+recording〕 映画・テレビで,画面だけを撮影し,あとから台詞(せりふ)や音などを録音すること。ポスト-スコアリング。 →プレスコ