2024年10月7日 5時00分
こだわりの合衆国?
あの国のことを、私たちは何と呼ぶべきなのだろう。日本の新聞やテレビでは「米国」とか「アメリカ」といった言い方が常だが、石破茂首相は先日の就任会見で「合衆国」との表現を多用していた。聞いていて、おやっと思った▼政治取材をしている同僚記者に尋ねると、安全保障の専門家としての自負からではないか、という。首相が改定への意欲を示す日米地位協定は、多くの条文で、米国を「合衆国」と記す▼思い出すのは、本紙記者だった本多勝一(ほんだ かついち)氏が著した(ちょした)『アメリカ合州国(がっしゅうこく)』だ。正式名のユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカを直訳すれば「衆」ではなく、「州」だとの主張である。衆では、民族が溶け合っているようではないかと▼哲学者の鶴見俊輔(つるみ しゅんすけ)氏はこれに感化され、「北米合州国」との表現を使った。ハーバード大卒の碩学(せきがく)は本多論に賛同しつつ、アメリカには南米や中米もあるから「北米」とすべきだとした▼では、当の米国人はというと、公式の場では「US」や「ユナイテッド・ステーツ」をよく聞く。スポーツの応援ならば「USA」か。庶民の会話で好まれるのは「アメリカ」だろう。トランプ氏のスローガンは「アメリカを再び偉大に」である▼政治家も、言論人も、言葉に生きている。そのこだわりはときに、物事の本質を突く。就任会見から3日後、首相は所信表明で日米地位協定に触れず、合衆国との表現も使わなかった。どうしてか。これからはどうするか。しかと聞き逃さずにいたい。