2024年10月28日 5時00分
バンザイと万歳三唱
人間というものは、実に様々なことに夢中になる。若者ならば、なおさらか。中丸紗慧(さえ)さん(24)がこよなく愛するのは両手をあげ、バンザイをすること。半世紀の伝統を持つ早稲田大学バンザイ同盟というサークルの48代目の幹事長である▼いったい、どこが面白いのですか。そう尋ねると、「一番いいところは、やっている自分たちが楽しいことかな」。中丸さんは笑顔で言った。仲間とともに大声を張り上げ、体を大きく動かすのが、何とも気持ちがいいそうだ▼歴史を振り返れば、万歳には暗く、悲しい影がつきまとう。天皇陛下万歳といった言葉に、あの戦争を想起する人もいるだろう。でも、彼女たちが考えるのは堅苦しい漢字の万歳ではなく、カタカナの明るいバンザイなのだとか▼きのう列島各地で、当選を祝う幾多の万歳が夜空に響いた。知らない外国人が見たら、さぞ不思議な光景に違いない。選挙のたびに繰り返される、いわば儀式である▼バンザイ同盟からすると、そんな政治家たちの万歳は美しくない。「やらされている感じで元気なく、あまり楽しそうじゃないから」。手のひらを正面に向けて腕を上げる人も多く、お手上げ状態に見えるという▼衆院選は、自民党に厳しい審判だった。国民の不信に向き合わぬ政権への怒りは、かくも強きか。裏金をもらった候補にも当選者はいたが、みそぎが済んだと万歳三唱に浮かれるならば、バンザイどころかマンザイである。この国の政治は、変わらねばならない。