2024年10月24日 5時00分
ノーベル経済学賞の研究
なぜ、だれも予測できなかったのですか。リーマン・ショックから間もない2008年秋、英国のエリザベス女王が経済学者たちに尋ねたが、だれも答えられなかった。8カ月後に学者や中銀幹部、関係官僚ら33人の連名で送った反省文のような書簡は、いま読んでも興味深い▼金融危機の予兆を見落としたのは、それぞれの「傲慢(ごうまん)さと考えの甘さ」だったと認めて、原因も縷々(るる)説明した。最後は「女王陛下、要するに(略)多くの聡明(そうめい)な人々が全員、システム全体のリスクを理解する想像力に欠如しておりました」とまとめている▼昔の書簡を思い出したのは、今年のノーベル経済学賞の授賞理由を見たからだ。米マサチューセッツ工科大のダロン・アセモグル教授ら3人で、「社会制度が国家の繁栄に与える影響の研究」が評価された。国民が幅広く政治参加する制度が、長期の経済成長を促すとデータで実証した▼アセモグル教授の共著『国家はなぜ衰退するのか』は、過去300年の世界史を「制度」の視点から解釈した。政治や経済の体制を、権力が多元的に分配される「包括的」と少数に集中する「収奪的」に分け、前者が望ましいと結論づけた▼彼の著書はどれも分厚く難解だ。それでも読み続けると、世界各地の歴史をたどる壮大な物語のような楽しさがある▼専門家だけではリスクに気づけなかった過去の教訓を、みんなが公平に参加できる制度づくりで生かしたい。だれもが豊かな社会を育て、守っていくためにも。