2024年10月21日 5時00分
海外からの国民審査
辞めさせたい最高裁判所の裁判官に「×」をつける。この国民審査のしくみは、憲法に基づくにもかかわらず、国から冷たい仕打ちを受けてきた。セットで行われる衆院選には、2000年から、海外で暮らす有権者も投票できるようになった。でも国民審査は対象外だった▼在外邦人が裁判を起こすと、被告である国はこう反論した。国民審査は、民主主義を育んでいくうえで「不可欠の制度とはいえない」。大切にしてきたはずのものを投げ捨てるような、なんと悲しい言葉だろう▼最高裁は22年、国の主張を退け、違憲判決を下した。それで今回初めて、海外からも国民審査に加われるようになった。ようやくである。邦字紙のブラジル日報が「なんで今までできなかったのか不思議」という地元の声を伝えていた▼とはいえ、課題がすっかり消えたわけではない。ほとんどの在外公館は早くもこの週末で、衆院選と国民審査の投票を打ち切った。投票の済んだ用紙を日本まで持ち帰る必要があるからだという▼在外投票制度の改善を求めている「海外有権者ネットワークNY」によれば、各地での平均投票期間は4・29日。いかにも短い。おまけに、公館まで車で一日がかりという地域もある▼18歳以上の在外邦人は100万人を超えるという。投票への間口を広げねばならない。デジタル化の御旗をかかげて、異論をよそに健康保険証は廃止しても、海外からのネット投票の実現には踏み切らない。嫌みの一つも言いたくなる。