2024年10月19日 5時00分

西田敏行さん逝く

 「釣りバカ日誌」のハマちゃんは今回、映画でどんなバカバカしい宴会芸を披露してくれるのか。それがシリーズのファンの楽しみの一つだった。岩手県釜石市が舞台となった回では、ホタテ貝のビキニ姿になって、腹丸出しでレゲエで踊る▼「あれはもう完全な即興です」と、西田敏行さんがかつて明かしている。喜劇にはライブ感が必要との思いから、三國連太郎さん演じるスーさんとの会話もアドリブの応酬だった。どこまでが演技で、どこからが地なのか。それほど役が板についていたということだろう▼希代のエンターテイナーが76歳で亡くなった。「西遊記」の猪八戒から池中玄太、ハマちゃん、「探偵!ナイトスクープ」の局長など、世代によって印象に残る場面は異なるかもしれない。それだけ長く愛された▼明るくてお人よしという役柄にあう俳優なら大勢いる。でもそれに加えて、すけべで、頑固で、一抹のさびしさも漂わせて……となると、西田さんにかなう人はいまい▼ふるさとの福島から上京してまもないころ、友達ができなかったそうだ。上野動物園のゴリラの悲しそうな表情を見て「ここに同類がいる」と通い詰めた。役者としての原点のように思えて、忘れがたい挿話である▼人間とは、おかしさの中に悲しさも宿す矛盾の塊だと、回想録で語っている。「それにしても、よくもこんなに膨大な作品で、毎度異なる人物を演じてきたもんだ」。にんまりとした笑顔を記憶に残して、突然逝ってしまった。