2024年12月14日 5時00分
スワンプロジェクト
渡り鳥(わたりどり)が見たくて、宮城県(みやぎけん)の伊豆沼(いずぬま)・内沼(うちぬま)へ行った。早朝(そうちょう)、水面を覆う(おおう)霧(きり)の中から、魔法のように無数の点がわき上がる。やがてそれは、空に幾筋もの線を描き始め、矢印(やじるし)となり、羽ばたきのシルエットに変わって頭上を次々と越えてゆく▼雁(ガン)たちの朝の飛び立ちである。近くの田んぼで落ち穂(ほ)などを食べて、一日過ごす。飛来したガンや白鳥(ハクチョウ)にとって、ここは安息の地だ▼昨年末から今春にかけて、県の財団(ざいだん)などがハクチョウ20羽の首にカメラ付きGPSを着けた。1日に4度、自動的に写真を撮って送ってくる。題してスワンプロジェクト。夏を過ごす極東(きょくとう)ロシアと越冬地(えっとうち)は数千キロ離れており、ネットで公開されている写真を見れば、ハクチョウの背に乗って旅する気分になれる▼雪に覆われた眼下のツンドラ。南をめざして険しい山の上をまっすぐに行く仲間たち。遮る(さえぎる)もののないオホーツク海では、水面すれすれを飛び、途中でぷかぷかと浮かんで休む▼「あんなに大変なところを越えて帰って来るとは」。財団の嶋田哲郎(しまだ てつろう)さん(55)は、感慨ひとしおだった。30年にわたって現地で観察を続け、心を通じ合えそうな何かをハクチョウたちに感じてきた。カメラがとらえた旅路で、その思いは一気に深まった。「頑張ったんだなあ、この子たち」▼夕刻、ハクチョウたちは沼のほとりで静かに憩って(いこって)いた。ねぐらへ戻ろうとガンが鳴き交わす声が、遠くから近づいてくる。それは何だか、とても愛おしい(いとおしい)光景だった。