2024年12月30日 5時00分
耳底に残る言葉たち
耳底に残る言葉がある。お飾りや借り物などでなく、その人の本心から発せられた真の語りと言ったらいいか。ぐっと胸に迫り、何とも忘れがたい。そんな言葉を思い出し、この1年を振り返ってみる▼「まあ、したきゃあ、すればいいと思っております」。袴田秀子さんは言った。弟の巌さんに無罪判決が出た後、検察の控訴について問われ、笑顔で答えた。巨大な権力組織をものともしない、ひとりの人間の強さに圧倒される▼政治が動いた年だった。「私は至らぬ者であります」と頭を下げた人が、この国の行政のトップになった。「勇気と真心をもって真実を語る」。自らが示した決意から、石破首相は逃れられまい▼選挙についても、考えさせられた。デマや偽情報で揺さぶられ、傷ついた民主主義はどこへ行くのか。「何と向かい合っているのかという違和感があった」。兵庫県知事選の「敗戦の弁」で、稲村和美氏は戸惑いを隠さなかった▼痛ましい事件は絶えない。「千奈ちゃんは、本件を教訓にするために生まれてきたわけではない」。園児が通園バスのなかに取り残されて死亡した事件の判決後、静岡地裁の裁判官が被告に語りかけ、声を詰まらせた▼「もう一度繰り返します。原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていない」。ノーベル平和賞の授賞式で、日本被団協の田中熙巳(てるみ)さんは訴えた。「瞬間に、パッと思いついた」という言葉の何と重いことか。あの敗戦から、来年で、80年である