2024年12月19日 5時00分
日産ブルーバードの輝き
ある日、父がブルーバードを買ってきた。私が小学生のころだったか。中古で、青色の車体の端にはサビがあったけれど、ブルブルという大きなエンジン音に、家族みんなが笑顔になった。すぐにドライブに出かけた。慣れない揺れで、車酔いしてしまった▼20世紀はクルマの時代だった。人類が手にした新たな移動手段は、またたく間に世界に広がり、先進国では、マイカーが市民の暮らしを一変させた。ときが過ぎ、21世紀のいま、この国の自動車業界は、岐路に立っている▼ホンダと日産自動車が、経営統合に向けた協議を始めるという。実現すれば、世界有数の巨大グループが生まれる。電気自動車(EV)の台頭により、立ち遅れた日本勢の生き残りの戦略らしい▼海外はといえば、急成長する米国や中国の新興企業が、EVの充電の機能や、車のなかの快適さを高めようと激しく競う。家電メーカーが車をつくる時代でもある。形も、中身も、自動車のありようは、車酔いするほどに大きく変化している▼「世界の市場へ出てゆくものは、単なる製品といった『物』ではない。それ以前にある思想だ」。ホンダの創業者、本田宗一郎はそんな言葉を残している。何を、何のためにつくるのか。しっかりと理念を持てということだろう▼我が家のブルーバードは、空調もきかず、窓もよく閉まらないポンコツだったが、あの時代には輝いて見えた。両社はどんなクルマをつくろうとしているのか。そのこれからを、注視したい。