2024年11月28日 5時00分
45人の有罪判決
彼と会ったのは、いつだったか。手元のメモ帳を見ると、4年前、2020年の12月の日付が記されている。区諾軒(アウノックヒン)さん。あのときはまだ33歳で、香港から来日し、東京大学大学院での博士課程の留学生活を、始めたばかりのころだった▼都内の小さな洋食の店で、友人同士の会合があり、そこで一緒になった。若くして民主派の立法会議員を務めたというから、やり手の政治家を想像したが、そんな感じではなかった。木訥(ぼくとつ)とした話し方で、むしろ研究者が肌に合っているように見えた▼散会して、帰る方向が同じだったので、2人で地下鉄に乗った。コロナ禍で乗客は少なく、ゆったり座って、私たちは言葉を交わした。何だか冗談が出て、あははと笑い合った後、彼はぽつんと言った。香港で自らにかかわる裁判があるので、近く一時帰国をするのだと▼戻ったら、当局に捕まるかもしれない。日本に残る選択はないのかと尋ねると、「みんなに迷惑をかけるから、戻る」。そう語る深刻な表情を、私はいまも覚えている。家族や仲間のことを考えた末の決断だったのだろう▼先週、香港の裁判所は、予備選の実施で政権転覆(せいけんてんぷく)を図ったなどとする理不尽な理由で、民主派45人に最長で禁錮10年の有罪判決を下した。被告のなかには、区さんの名もあった。量刑は禁錮6年9カ月だった▼東大は判決を受け、英文の短い談話を出した。区さんの学籍を残したまま、その復学の日を待つとしている。獄中の彼を思い、唇をきつく、かむ。