2024年11月10日 5時00分

元寇750年

 むくりこくり、という言葉がある。手元の辞書によれば、恐ろしいものの例えだそうで、泣きやまない子に「むくりこくりが来るぞ」と言い聞かせたとある。漢字では蒙古高句麗。元寇(げんこう)でやってきた軍勢のことだという▼歴史に根ざしたふしぎな響きを道中くりかえしながら、長崎県の鷹島を訪れた。今年は文永の役から750年。2度目の襲来である弘安の役で小さな島は戦場となって、暴風雨(ぼうふうう)で多くの船が周囲に沈んだ。3隻目が先月見つかったばかりだ▼島の埋蔵(まいぞう)文化財センターには、これまでに引き揚げられた品々が並んでいた。中でも「てつはう」に目を奪われた。教科書に出ていた蒙古襲来絵詞(えことば)のあれである。てっきり金属製と思っていたが、鉄片などを中に詰めた土の球だった▼日本史の一幕ににわかに現れたこの外国勢は、モンゴル人だけでなく、他の民族も加わっていた。元によって加えられた、というべきか。水中調査にあたった国学院大の池田栄史(いけだ よしふみ)教授によれば、最も(もっとも)多く見つかっているのは、蒙古軍に滅ぼされた南宋(なんそう)の人が使う器などだそうだ。支配下に置かれた高麗(こうらい)のさじもある▼異民族の意のままに、見知らぬ地で戦わされた一兵卒たち。いったいどんな思いだったろう。その悲哀はいつの世も変わるまい。現代に思いは飛び、北朝鮮の文字がふとよぎった▼センターから眺める海は大小の入り江に縁取られ(ふちどられ)、じつに穏やかだった。つわものどもが夢のあと。長い長い時間、彼らは海の底で眠り続けている。

鷹島(たかしま)は、伊万里湾口(いまりわんこう)にある島。全島が松浦市(まつうら)に属する。

伊万里湾の湾口部のうち、青島(あおしま)と鷹島(たかしま)の間を青島水道、高島と東松浦半島の間を日比水道(ひびすいどう)という。