2024年11月9日 5時00分

タコ引っ張りだこ

 人間が「考える葦(あし)」ならば、タコは「考える足」である。8本の足の知性は高い。いや、まてよ、あれは足ではなく、手だったか。賢人(けんじん)アリストテレスの『動物誌』に答えを探せば、厳か(おごそか)に記された一文があった。「タコは、腕を手としても足としても使う」▼前置きが長くなったが、タコの話である。値段が上がっているそうだ。総務省の9月の小売物価統計(こうりぶっかとうけい)によると、東京の区部で100グラムが507円。エビやブリはもとより、マグロより高くなっているという▼タコよ、お前もか。たこ焼きはどないすんねん――。そんな声が聞こえてくる気がする。原因はというと、世界的な需要の高まりからだとか。「悪魔の魚」などと敬遠されたのは、過去のこと。その美味(びみ)を、各国の舌が気づき始めたらしい▼値上げは嫌だが、たくさん食べられてしまうタコはもっと嫌だろう。「海の賢者(けんじゃ)」と呼ばれ、独自の知能を発達させた存在だ。手を組み、足を組んで、2本足の胃袋の貪欲(どんよく)さを嘆いているに違いない▼ウナギやサンマが高騰し、大騒ぎになったことも頭をよぎる。一方で、夜のスーパーに行けば、大量の海の幸が売れ残り、廃棄される消費社会である。もっと賢く、うまく自然とつきあえないものか▼〈海の底へ行って/タコの庭でひっそりと暮らしたいな〉。ビートルズは名曲「オクトパス・ガーデン」で歌った。そうすれば〈君も僕も幸せになれるだろう〉と。いま問われているのは、海の賢者ではなく、私たちの知性である。