2024年11月8日 5時00分
埴輪のほほえみ
上野の森に行ってきた。埴輪(はにわ)に会いに、と言ったら、ちょっと気取り(きどり)すぎか。半世紀ぶりの開催だという東京国立博物館の特別展「はにわ」を見てきた。遠い昔、日本列島に暮らす人たちがつくった、あの不思議な造形がずらりと並ぶ▼だれもが知るように、埴輪の表情はどれもやさしげで、あたたかい。どうしてだろう。「古墳時代は、平和だったのでしょう。穏やかな表現が許される、自由度の高い社会だったのでは」。主任研究員の河野正訓(かわの まさのり)さん(43)が教えてくれた▼なるほど、人々が戦いに明け暮れているような時代には、大きな古墳や埴輪はつくれないか。馬をひく人、踊る人、ひざまずく人、相撲をとる人……。じつに多様な埴輪があることに驚く。鹿や猿といった動物もいる▼なぜつくられたか。どうして踊るのか。幾多の疑問が浮かぶ。文字の記録がないため、分からないことは多い。にっこり笑う埴輪がいる理由も、豊作の喜びか、魔よけの意味か、諸説ある。真実を知っているのはいまや当の埴輪だけか。そう思うと、どこか少し愉快になる▼「埴輪の魅力は、動きがあること」と河野さんは話す。赤ん坊を抱える女性埴輪の腕を見れば、その何と愛(いと)おしげなことか。子を思う親の気持ちが、ひゅっと時を飛び越え、胸を打つ。「その一瞬を切り取って、つくっている。表現の簡略化が絶妙です」▼私たちはどこから来て、どこへ行くのか。深遠な笑みを浮かべる埴輪の目のおくに、古代に生きた人の豊かさを知る。
埴輪(はにわ)は、古墳時代の日本の特有の器物(きぶつ)。一般的には土師器( はじき)に分類される素焼き(すやき)土器(どき`)である]。祭祀(さいし)や魔除け(まよけ)などのため、古墳(こふん)の墳丘(ふんきゅう)や造出(ぞうしゅつ)の上に並べ立てられた。日本各地の古墳に分布している