2024年11月26日 5時00分
ロシアの新型ミサイル
真夜中の午前3時のことだ。電話が鳴った。眠りから覚まされ、受話器を取ると、部下の声が響いた。「米国に向け、ソ連から220発のミサイルが発射されました」。反撃すべきかどうか。すぐに大統領に報告し、7分以内に判断を仰がねばならない▼ときは1979年11月、カーター米政権の大統領補佐官、安全保障担当のズビグニュー・ブレジンスキーは、情報をもう一度、確認するよう部下に命じた。2回目の電話は言った。「発射されたのは、2200発でした」▼もはや全面戦争は避けられない。彼はそばで寝ている妻を起こさなかった。30分後には、どうせ誰も生きていないのだ。怖い思いをさせる必要もあるまい。3回目の電話が鳴った。発射の情報は誤りだったという。彼はベッドに戻った▼米国防長官などを歴任したロバート・ゲーツ氏の著書などに記された史実である。米ソ冷戦の時代、あわや核戦争の勃発かといった事態は幾度となくあった。世界の破滅がかろうじて回避されたのは、奇跡と言っていいのかもしれない▼ロシアが新型の中距離弾道ミサイルでウクライナを攻撃した。米英が供与した長射程兵器で、自国の領内が攻撃されたことへの対抗措置だという。プーチン氏は核兵器の使用基準を緩める決定もしていた▼歴史の教訓はいずこに消えてしまったか。核をちらつかせ、侵略を続けていって、その先にいったい、どんな未来があるのか。大国による非道な脅しの危うさに、不安を覚えてやまない。