2024年11月19日 5時00分
兵庫県知事選
何が起きたのか、と驚いた人も多かっただろう。兵庫県の出直し知事選である。県議会から不信任を突きつけられた斎藤元彦氏が、大差で再選を果たした▼聞けば選挙戦は、全体に異様な雰囲気だったという。斎藤氏の街頭演説の場で、記者たちは「偏向報道」「帰れ」と聴衆から罵声を浴びた。候補者の一人が投稿した動画の中には「パワハラはなかった」と訴えるものもあった▼何を参考に票を投じたのかと、NHKが出口調査で尋ねたところ、最も多かった答えは「SNSや動画サイト」(30%)。「新聞」も「テレビ」(各24%)も及ばなかった。メディアにとっては悲しく、深刻な数字である▼おそらく、百条委で糾弾した議員も、稲村和美氏を支持した県内22市長も、政党も、メディアもみな同じ、既得権益の側とみなされてしまったのかもしれない。同じ出口調査では、斎藤県政を「評価する」人が7割にものぼった▼一方の目から見れば、斎藤氏は既得権益にいじめられている改革派だと映ったのだろう。しかし、部下の4割にパワハラを見聞きされていたのも、また斎藤氏である。見ている世界が違っている▼米国の共和党集会では、トランプ氏のあおりにのって「CNNくたばれ」などと聴衆が罵声を飛ばす光景が、もはや当たり前になってしまった。日本もそのとば口に立っているのかもしれない。既得権益側というメディアへの不信に向き合わねば、分断を防ぐことはできまい。重い課題をつきつけられている。