2024年6月22日 5時00分

スマホ依存が行き着く先は

 人間とロボットが共存するその平和な世界に、スマホは存在しない。通信機器は固定電話とファクスだけで、高速道路の最高速度は40キロだ。子どもたちは輪投げ(わなげ)や射的(しゃてき)で遊ぶ。近未来を描いた水沢悦子(みずさわ えつこ)さんの『ヤコとポコ』は不思議な漫画である▼主人公は漫画家ヤコと、不器用なネコ型ロボットのポコ。新旧技術が混在する物語を読み進むと、この社会で50年前に「革命」が起きたことがわかってくる。技術発展の果てに悲劇が起き、革命を経て社会が一変したのだ。突き進むことをやめた人々は生活のペースを落とす▼いつか現実でも、こんな揺り戻しがあるのではないか。スマホが手放せない(てばなせない)毎日に、そんな不安がよぎった。高速通信に支えられ、AIが急速に進歩して行き着く先で、人間が幸せになれるとは思えない▼スマホ依存が起きるのは、ページをめくるごとに脳内で快楽物質のドーパミンが放出される(ほうしゅつされる)からだという。若者の心の健康への悪影響が世界中で懸念されている▼日本でも話題になった精神科医のアンデシュ・ハンセン著『スマホ脳』で、iPhoneの開発者が強い依存性について後悔の言葉を漏らしている。「冷や汗をびっしょりかいて目を覚ますんだ。僕たちはいったい何を創ってしまったんだろうって」▼冒頭の漫画では、違法な超高性能ロボットの製造を知って怒る学者が涙ながらにつぶやく。「またたくさんの死者が出る。どうしてほどほどにできないんだ」。便利さと危険の間で悲鳴が聞こえる。