2024年6月14日 5時00分

ムーミンと梅雨入り

 ムーミンパパは悩んでいた。家族のみんなに、自分は頼りにされていないのではないかと。何とか現状を変えたい。そんな彼の思いで、一家はムーミン谷を離れ、小さな島に移住する。ところが、島には不快(ふかい)な雨が降り続く。家族はみな気が滅入ったて(めいって)しまった▼トーベ・ヤンソン『ムーミンパパ海へいく』は、煩悶(はんもん)する家族の物語である。著者による挿絵(さしえ)は、彼らを冷たく打つ雨を、繊細な斜線によって印象的に描いている。まるで、ムーミンたちのふさいだ気持ちを雨で表しているかのように……▼こうした斜線による雨の描き方は、歌川広重(うたがわ ひろしげ)の「大はしあたけの夕立(だいはしあたけのゆうだち)」など、浮世絵(うきよえ)が元祖と言われる。ヤンソンも影響を受けていたのだろうか。ムーミンは雨を通じ、日本文化とつながっていたのかもしれない▼さて、今の世に話を移せば、すでに暦では入梅(にゅうばい)を過ぎながら、今年は斜線の季節の到来が遅い。かつて高浜虚子(たかはま 虚こ)が詠んだ〈今年は時序の正しき梅雨の入り(ことしはときじょのただしきつゆのいり〉とは、大きく異なる年のようだ▼梅雨を「つゆ」と読むのは、湿気の多さを表す「露けし(つゆけし)」からともいう。確かにジトジトした雨はうっとうしい。でも、なかなか梅雨入りしないのも、なぜだか落ち着かない▼悩めるムーミン一家は、ママの提案でピクニックに行く。又もや(またもや)雨が降ってくる。不思議なことに、みんなもう気にしない。「すべてがごく自然で、それでよいのだという気がしてきました」。再生の象徴もまた、雨である。そうヤンソンは言いたかったか。

Moominpappa at Sea (Swedish: Pappan och havet, literally "My Father and the Sea") is the eighth book in the Moomin books by Finnish author Tove Jansson. First published in 1965, the novel is set contemporaneously with Moominvalley in November (1970), and is the final installment in the series where the titular Moomin family are present within the narrative.