2024年8月28日 5時00分
台風10号への備え
フランス語の学習で最初に躓く(つまずく)のは、名詞に男女の区別がある、という点である。頭にかぶせる冠詞もそれで変わる。海(メール)が女性名詞というのは、まだわかる。われらの漢字「海」の中にも「母」がいる。大地(テール)や雨(プリュイ)も女性。しかし風(ヴァン)は男性というあたりで、もうお手上げである▼戦後の一時期、日本ではカスリーンやキティなどと、台風に女性の名をつけていた。いまはもっぱら番号で呼ぶが、アジアでの共通名(きょうつうめい)というのはあって、奄美大島沖(あまみおおしまおき)でぱちりと目を開けている台風10号はサンサンという。香港由来の少女の名だそうだ▼響きはじつにかわいらしい。しかし名は体を表さず。これを書きながら、テレビの天気予報から目を離せずにいる。何しろ、きょう正午の予想中心気圧は935ヘクトパスカル。ぎょっとする数字である▼かつての勤務地で、同じような台風に見舞われたことがある。非常に強い雨風(あめかぜ)を受けて、職場のビルは、波に漂う貨物船のように揺れ続けた。一日中、生きた心地がしなかった。街のあちこちで車が転がされていた▼しかも今度のは、自転車なみの鈍足(どんそく)だという。のろのろと北上したあとは、人間をもてあそぶかのように、列島の形をなぞって進む恐れがある。長い時間にわたって影響を受ける地域が出てきそうだ▼この台風。少女とはいっても、気まぐれで、乱暴で、周囲を脅かす「恐るべき子ども(アンファン・テリブル)」だろう。備えを怠るまい(そなえをおこたるまい)。危険だと思ったら、早めに避難する。被害が出ないように、と祈るばかりだ。
備えを怠るまい(そなえをおこたるまい)準備をおろそかにしてはいけない