2024年8月25日 5時00分

タリバン支配から3年

 アフガニスタン人のゾエル・デルジョンさんに会ったのは、2001年10月のことだ。彼は故郷カブールの自宅が米軍の攻撃で壊され、隣国パキスタンに家族7人で逃れてきていた。56歳と言ったが、日に焼けた顔には深いシワが刻まれ、頭髪(とうはつ)もヒゲも真っ白だった▼「毎晩空爆(くうばく)が続く街が、怖くてたまらなかった」。苦しそうに彼は話した。同じ境遇(きょうぐう)のアフガン難民200人ほどが、肩を寄せ合うようにして、郊外の谷間で雨露(あめつゆ)をしのいでいる。多くが徒歩で山を越えてきたという。民族服シャルワルカミーズが一様に、茶色く泥に汚れていた▼爆撃機は夜、大量の爆弾(ばくだん)を落としたそうだ。閃光(せんこう)で辺りが照らされ、激しい爆発音(ばくはつおと)が響く。大地が揺れ、家が崩れた。夜空に、米軍機は見えない。姿なきものに殺される恐怖、それがいかに耐え難いか。訥々(とつとつ)と語る彼の悲痛な顔を、私はいまも覚えている▼なぜ自分たちが攻撃されるのか。ひょっとして米国はここに民家があるのを知らないのではないか。住民たちは広場に集まり、暗い空に向かって、みんなで手を振ったという。だが、爆撃は止まなかった▼アフガンの民(たみ)の歴史は、大国に翻弄(ほんろう)される悲しみに満ちている。米国との戦争で、タリバン政権は崩壊したが、復興の道は険しく、匙(さじ)を投げるように米軍は去った。女性の人権を抑圧するタリバン支配が復活し、今月で丸3年になる▼私たちは、かつての関心を失っていないか。夜空を見上げ、遠く、かの地の人たちのことを思う。