2024年8月10日 5時00分
南海トラフ地震への備え
ペリー来航の翌年、1854年のことだ。伊豆・下田沖(しもだおき)に、プチャーチン率いるロシアの軍艦ディアナ号が通商を求めて停泊(ていはく)していた。午前9時ごろらしい。船が突然はげしく揺れた。逆立つ波(ぎゃくだつなみ)が、船をもてあそびながら、陸へ押し寄せる。南海トラフ沿いを震源とする安政東海地震の発生である▼高さ6メートルにもなる津波に襲われ、町の家々は95%が流された。現地にいた幕府のロシア応接掛(おうせつがかり)が記録している。「黒煙(こくえん)を立て、船を押し込め、家の崩れるさま、人々叫び、地獄(じごく)もかくやと思うばかり」▼驚くのは、その翌日だ。同じような規模の安政南海地震が起き、大阪などの各地に、やはり甚大な(じんだいな)被害をもたらした。列島の太平洋側の東と西とで、大きな揺れが立て続けに起きるかもしれない――それが南海トラフ地震の想定の恐ろしさだ▼おとといの宮崎県沖での地震を受け、気象庁は南海トラフ地震臨時情報を初めて出した。今後1週間は巨大地震の発生に注意するように、という▼「ふだんより数倍は地震の可能性が高まった」「だが必ず起きるわけではない」「日常の生活を続けてください」。やや煮え切らない専門家たちの言葉は、地震の予測の難しさゆえだろう▼とはいえ、心づもりをせよと( must do)地の底が伝えているのだ。昨夜は、首都圏で揺れもあった。改めて備えを確かめておきたい。この1週間を旅先などで過ごす方も多かろう。津波が来たら、どこへ逃げればいいのか。確認のわずかな手間が、命を救うかもしれない。
南海トラフは、南海道(南海)に沿って東西に広がる深い海溝(かいこう)で、紀伊半島沖から四国沖、さらに九州沖にかけて広がっています。このトラフ(trough)は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートとの境界に位置しています。