2024年5月26日 5時00分
日本手話(しゅわ)で学ぶ
もしイギリスで、初歩的(しょほてき)な英会話しかできない大人が小学校の担任になったと言われたらどうだろう。きちんと教えられるのか、親も子も先生も不安だろう。でも似た光景が日本にあるという。ろう学校だ▼日本手話を第1言語として育ったろう児に対して、教える側は必ずしも手話を知らない。ろう学校への転勤を命じられ、手話ができないと尻込みしたら「子どもは声で話す訓練をしているから大丈夫」と説得された、という体験を読んだことがある▼カタコト手話での授業は思うようには進まない。「赤い金魚が5匹と黒い金魚が3匹。計何匹(なんぴき)でしょう」。簡単な足し算のはずが単語の推理ゲームになってしまう。自分は児童の母語を奪っていたのでは、と元教師は悔いた▼日本手話で教えてもらえなかったとして、札幌聾(ろう)学校の児童が賠償を求めた訴訟の判決があった。先生のために児童の側が、伝えたいことを簡単な手話単語に置き換えたり、何度も繰り返したりした場面もあったようだ▼だが札幌地裁の判決はそっけなかった。日本手話での教育を具体的に保障する法律はなく、他の表現手段をあわせれば「一定水準」の授業はできる、という。何と冷たく響く言葉だろう▼北海道も含めて、いまでは536の自治体が「手話は日本語とは異なる独自の言語だ」などと説く条例を持ち、手話の普及を掲げている。ならばその最前線で「独自の言語」を保障しなくては。お題目を唱える(となえる)だけなら、何のための条例か分からない。