2024年5月22日 5時00分

輪島(わじま)で花屋(はなや)を続ける

道を行けば、緑の木々に霞(かすみ)をかけたように、薄紫(うすむらさき)のフジが咲いている。町を歩けば、鮮やかな青のパンジーが目に入る。タンポポの黄色もまぶしい。元日の地震で倒れた家々のくすんだ色との対比(たいひ)を感じるからか。先日訪れた能登の地で、花の色が妙に心にしみた▼輪島市の町中にある花屋「フラワー花よし」は建物が半壊した。何とか3月に営業を再開したが、店主の竹林則子(たけばやし のりこ)さん(60)は嘆いていた。「これから、どうしよう。途方に暮れるとはこういうことかな」。一日に3人しか客が来ないこともあるという▼無理もあるまい。周囲を見れば、崩れた家屋とがれきの光景がいまも広がる。まだ水が来ていないところもある。自宅に戻れずにいる住民は多い。「輪島は見捨てられたのかと感じることもあります」▼石川県は、今後9年間の復興プランの素案(そあん)を発表した。地域の外から関わる「関係人口」の拡大や、災害に強い自立型のインフラ整備などを柱とし、「創造的復興」を目指すという▼もはや誰もが、分かっている。きれいにコンクリートで街を再建しても、住む人がいない復興では意味がない。人口減少にどう向き合うか。深刻な高齢化の現実をどうするか。大きな政治が思考停止を続けるなか、被災地が直面するのは、この国の難題の縮図(しゅくず)である▼みんな、戻ってくるのだろうか。不安を感じながら、それでも、竹林さんは私に言った。「輪島で花屋を続けたい」。多彩な生花(いけばな)の甘い香りが、静かに店を覆っていた(おおっていた)。