2024年5月15日 5時00分
沖縄復帰52年
メースBやオネスト・ジョンといえば、かつて沖縄に米軍が備えていたミサイルの名前だ。復帰前に作られた巨大な発射台の遺構を見たことがある。分厚いコンクリートの発射口(はっしゃぐち)は、対中国として北西に向けられていた▼そうやってミサイルと背中あわせに暮らす者の悲哀を、沖縄出身の詩人・山之口貘(やまのくち ばく)が書いている。「おねすとじょんだの/みさいるだのが/そこに寄って/宙に口を向けているのだ/極東に不安のつづいている限りを/そうしているのだ」▼長い年月を経て、またしてもということか。沖縄で自衛隊のミサイル部隊の配備(はいび)が進められている。もちろんかつてとは規模も威力も異なる。だが、ゆくゆくは敵基地攻撃能力のある長射程(ちょうしゃてい)ミサイルにさし変わり、米軍と一体運用しながら「宙に口を向け」るのだろう▼沖縄が米施政権下(べいしせいけん)から復帰して、きょうで52年。核兵器を取り除き、基地負担も本土並みに――というのが沖縄の願いだった。核はなくなった。しかし、基地負担の重さは変わらない▼極東の安定、北朝鮮の脅威、対テロ作戦と、基地を置く理由はいつも後付けで変わってきた。最近では、中国の脅威を理由に、沖縄が日本の「防波堤(ぼうはてい)」たることを当然視するむきが、政治家だけでなく、社会の間にさえ広がっているように見える▼基地の存在は抑止力を高めると説いた防衛大臣について、翁長雄志(おなが たけし)元知事が言ったことがある。「沖縄を領土としてしか見ていないのではないか」。噛み締める(かみしめる)べき言葉である。