2024年2月8日 5時00分

忘れる人は頭がいい?

 名探偵シャーロック・ホームズは、物忘れの天才である。彼いわく、人間の頭とは「小さな屋根裏部屋(やねうらへや)」なのだという。何でもかんでもガラクタを詰め込めば、肝心なときに必要なものを取り出せない。それは「愚かな連中」のすることだそうだ▼「だから、無用の知識はどんどん忘れて、有用な(ゆうような)知識のじゃまにならないようにすることが、きわめて重要なんだよ」。頭のいい人は忘れ上手だと言いたいらしい。助手のワトソンくんはこれを聞き、大いに驚いている(コナン・ドイル『緋色(ひいろ)の研究』)▼ひょっとすると、この人もホームズに倣った(ならった)のだろうか。旧統一教会の側からの選挙支援をめぐり、「記憶はない」と繰り返してきた文科相、盛山正仁(もりやま まさひと)氏である。「政策協定」に署名までしながら、「よく覚えていない」とは不思議だ▼もしもその言(こと)を信じるとしても、忘れたで済む話ではないだろう。宗教法人を所管する省庁(しょうちょう)のトップとして、自己と教団の関係は、覚えておかねばならないものだし、忘れていないかをよく調べておくべきことである▼人間のあらゆる思考は、記憶から始まる。都合の悪い過去の出来事をすべて忘れたとするような政治では、対話や議論は成り立たない。忘却(ぼうきゃく)の政治の先には、亡国の道がありはしないか。深憂(しんゆう)に堪えない▼せめて私たち国民は、忘れずにいたい。いま目の前で起きている茶番劇を、しっかりと記憶に刻む。それはきっと、選挙のとき、名探偵の言う「有用な知識」になるに違いない。

住居の勝手口(かってぐち、台所の出入り口。また,台所に行く入り口。「―に回る」)に積まれた「がらくた」 がらくた(ガラクタ、我楽多、瓦落多、瓦落苦多)は使い道のない、役に立たないもののことである。値打ちのない雑多な品物や道具類などをいう。しかし後述のとおり、視点によっては価値を見いだされる場合もある。