2024年2月26日 5時00分

1億円の価値

 資金もないのに、新聞の折り込みに不動産のチラシがあるとつい見てしまう。東京都内の物件は大変な勢いで値上がりしており、眺めるだけで感覚が麻痺(まひ)してくる。23区内の新築マンションは昨年、平均価格が1億1483万円に達した。前年より約4割高く、過去最高だったという▼「1億円」で鮮明に思い出すのは44年前、40代の男性が銀座で1億円を拾った際の大騒ぎおおさわぎ)だ。ふろしきに包まれて道路脇に落ちていたが、持ち主は名乗り出なかった。約半年後に1億円を手にした拾い主の動向を、メディアは詳細に報じた▼銀行の定期預金にした。都内のマンションを3690万円で買った――。年末ジャンボの1等が3千万円の時代、1億円は庶民の想像を超えた額だった。政府の調査による指標では所得格差の程度はこのころが最小だった▼先週、日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を記録した。実感は、まったくない。株価はもっと上がるとか、新NISAがスタートしたとか、投資をあおられているようで落ち着かない▼岸田首相は就任当初、格差是正をめざして「分配」重視にみえた。いまは、投資の旗振り(はたふり)に力を入れる。政権発足直後に株価が下落した「岸田ショック」がこたえたのか。格差も最高レベルだ▼投資をしない一番の理由は余裕(よゆう)がないからだという。多くの人にとって物価は上がれど実入り(みいり)は増えず、チラシで見る1億円は遠いままだ。一方で、億ションは売れ続けている。この状況、やはり歪(いびつ)である。

はたふり 43【旗振り】① 合図などのために旗を振ること。また,その人。② ある事柄を推進すべく率先して周囲に呼びかけること。音頭取り。「後援会設立の―役」

みいり 0【実入り】 ① 穀類が結実すること。また,穀物の実の入り方の程度。 ② 収入。利益。「―のいい仕事」